昭和54年のころ。大学の地下食堂で後輩のハチヤ君との話し。
ハ「のりもさん、今日は咸臨丸がアメリカへ向けて出発した日なんですよ」
ハ「そうですよ。朝刊に出てたんで、まちがいないですよ。ところで、
咸臨丸の咸臨ってどういう意味だか知ってます?」
私「え?知らない。どういう意味?」
ハ「漢字の意味でいえば、咸っていうのは『ことごとくすべて』とか『みんな』っていう英語でいえばallって意味と、『和睦する』とか『心をひとつにする』っていう意味があるんですよ。臨っていうのは、直面するっていう『のぞむ』とか、『目の当たりにする』『統治する』ってことなんですよ」
私「うん、足すと『みんなで心をひとつにして事にのぞむ』ってことか・・・なるほど・・・」
ハ「ね。この命名は中国の有名な文献『易経』から採ったっていわれてんですよ。ま、アメリカに向けてこれから旅立つという船の命名としてはよく合うでしょ」
私「うん・・・だけど一つだけ不満があるんだよなぁ・・・」
ハ「なんですか?」
私「心を一つにするはずなのにさ、咸臨丸の咸の字に心がないじゃないか・・・・
これ・・感の誤字?」
ハ「・・・・・・」
冬の日のかき消されたるあとに在り(山口青頓)