norimoyoshiakiの日記

昭和40年の後半からの学生生活と、その後のことを日記にしています。ご意見をお待ちしています。

フランス語

 ♬ アロン ザンファン ドゥ ラ パトリーェ

        ル ジュール ドゥ グロワーレ タリヴェ・・・・

                   (『ラ・マルセイエーズ』フランス国歌)

 

 昭和56年頃、研究室でしゃれ者の刑事法専攻Oが鼻歌ハミングをしている。

私「はは・・・今日はフランス人か?O」

O「この曲ってリズミカルで調子いいだろ。つい口についてでちまうんだよなぁ。学部でフランス語習ったときの名残かなぁ・・はは」

 

私「しかしまぁ、よく覚えてるよなぁ」

O「そうだ、それで思い出したんだけど、今日はギロチンの日って知ってるか?」

 

私「ギロチンの日?」

 

O「そうだよ、たとえば、マリーアントワネットが

シノォン パデ パァン キリモォンシュ デュ ブリオッシ

(S’ils n'ont pas de pain, qu'ils mangent du brioche.)って無神経なことを言って、処刑された処刑方法」

 

私「え?」

 

O「英語だと、If the people have no bread, let them eat cake.ってな」

 

私「・・・ぁぁ・・・パンがなければケーキを食べればいい・・・って大衆に向かって言ったってやつか・・・」

 

O「ご名答!!!」

 

私「まったく、まわりっくどいなぁ・・・」

 

O「はは、だけど、日本はいいよなぁ。『米がなければ麦を食え』って言っても処刑されないもんな」

 

私「・・・・(時代がちがうだろ)・・・・」

 

      花明りしてこの世かなあの世かな (篠崎圭介)

花づくし

 ある大学の講師控室で、国文学者F先生と雑談をしていた。

F「やれやれ、やっとあったかくなってきましたねぇ。桜も散ってしまったけれど、これからの季節は百花繚乱だからねぇ・・・」

 

私「『つつじ、さつき』っていうところですかねぇ」

 

F「それもあるけれど、

   『立てば芍薬、座居(とい)すりゃ牡丹、歩きすがたは百合の花』ってね。

                              知ってますか?」

 

私「ええ・・・子供の頃、『とい』じゃなくって、『座れば』ってフレーズでなら、

    よく聞きましたけど・・・

    それって美人のたとえを花にあらわしたものじゃないんですか?」

 

F「そうですね。だけどこの芍薬、牡丹、百合はだいたい4月から5月に咲き出す艶やかな花で、開花時期はほぼ同じなんですよ」

 

私「へぇぇぇ~~~・・・知りませんでした。ということは、花鳥風月を愛でる歌人なんかが言いだしたんですかね?」

 

F「それがね、元は江戸時代の滑稽本なんですよ」

 

私「え、あの『東海道中膝栗毛』なんかと種類が同じなんですか?」

 

F「そうですよ。だけど語呂がいいでしょ。ちょっと粋だから、都都逸なんかでも唄われてたようですね。

    江戸後期の諺語辞典『譬喩尽(たとえづくし)』にも出てるんですね」

 

私「なるほど、調子がいいのはわかりますねぇ。

  プロ野球のヤジでも

   『打てば三振、守ればエラー、走る姿はボケの花!!!』

                  って揶揄するヤジがありますもんね」

 

F「・・・・・・・・」

 

     白牡丹 といふといへども 紅ほのか(高浜虚子

直訳?

 大学の研究室で仲間たちと話していた。

A「温かくなってきたなぁ・・・花見の時期もおわって、そろそろ新学期到来の新入生歓迎会がはじまるなぁ」

B「おう、ビールがちょっとうまくなる時期だもんなぁ」

C「そういやぁ、この頃はスーパードライっていうビールが売り出されて、大人気になってるだろ?」

 

B「おぉ、あれうまいらしいなぁ。切れがあるっていうぜ」

C「アルコール度数が5パーセントなんだってなぁ・・・もう、ビールの概念が変わるぜ。何か作り方がちがうのかなぁ」

 

A「作り方で思いだしたけどさ、南ドイツのバイエルンでは1516年の4月に

   『ビール純粋令』っていう法が発令されて、

そのときから、ビールは大麦、ホップ、水のみを原料にして作られなきゃならない

                          ってことになったらしいぜ」

 

C「へぇぇぇ~~~。今もそうなのかなぁ?」

B「そんなわけ、ないだろ」

 

A「なんでも、バイエルンの王様がこの原材料三つだけで質のいいビールを作らせて、輸出できるようにしたかったのと、ビール造りに小麦を使わせないようにして、自分たちだけで小麦を使ったビール、

  これをヴァイセンビール(Weissen Bier:白ビール)っていうんだけどさ、

                     これを作って儲けようとしたんだって。

 だから、別名ヴァイセンビールを『貴族のビール』って呼ぶんだってよ」

 

C「なるほどな・・それでわ われわれは、

      今夜『超辛口の麦酒』を飲みに行こうぜ!」

 

A・B「ばか・・・なんだよそれ・・・」

 

      ゆく春や路地に酒売る店十戸(鈴木真砂女

ダイヤモンド

 

 大学地下食堂でハチヤ君と話していた。

ハ「のりもさん、世界で一番大きいダイアモンドってどこにあるか知ってます?」

私「え?また急になんで?」

 

ハ「いえぇ、この前ね。英王室の特集をテレビでやってたんですよ。あ、しまった!!」

 

私「ははは・・・答え、『イギリス王室』」

 

ハ「もぉぉ・・・では、それはどんなダイヤでしょうか?」

私「そんなの知らないよ。教えてよ」

 

ハ「エヘン、でわ。その名前を『カリナン・ダイアモンド』っていって、1905年にカリナンっていうひとが、原石を発見したんですよ。原石はなんと、3,106カラット、グラムでいうと621グラムになるんですって」

 

私「621グラム?実感がわかないなぁ」

 

ハ「よく、水晶占いって言って、占い師が机の上に丸い水晶を置いてるじゃないですか、あれくらいの手のひら一杯に乗るくらいの石だそうですよ」

 

私「ええ!!大きいもんだなぁ・・・そんなの加工できないだろ」

 

ハ「ところが、それを英王室がオランダの加工商に依頼して、9個のダイヤに分けて加工したんですよ。その一番大きいのが、530.2カラットあるカロリンⅠで、王笏のヘッドの部分にかざられてるんです」

 

私「おうしゃく?」

 

ハ「王さまが持っている杖があるじゃないですか。あれを王笏っていうんです。即位式なんかで王冠と杖を持って歩いているシーンをみたことありません?」

 

私「へぇぇ~~~」

 

ハ「象徴的だと思いません?ダイヤモンドって硬くて強いってことで、『無敵』とか『征服されない』っていう意味がこめられてるんですよね」

 

私「うん・・・だけどさぁ・・・そのカロリンⅠっていったい いくらくらいするんだろ?そんなに大きいと売れないよなぁ・・・そう思わない?」

 

ハ「・・・・・・」

 

     春暁のダイヤモンドでも落ちてをらぬか(波多野爽波)

ローマ建国日

 昭和55年ごろの昼下がり。研究室で刑事法専門のOと雑談をしていた。

O「ところでさ、今日21日が古代ローマの建国された日なんだぜ」

私「なんだよ、急に?」

 

O「いやぁ、もうすぐ天皇誕生日だろ。西欧とくにローマの歴史も神話でできてんだから、それと重なってさ」

私「へえぇ~~よく知ってんなぁ」

 

O「ああ、学部のときの西洋法制史だったか何かで、聞いたおぼえがあるんだよ。現陛下の誕生日から8日前にローマが建国されたってんだ」

私「うん?」

 

O「いやぁ、教授がそんなこと言ってたのが頭にあるんだよな。それでな、都市国家ローマを創ったのは、ロームスっていう王様なんだよな。この王は双子でさ、弟レムスと一緒に建国したっていわれてんだ」

私「ふんふん・・・それで?」

 

O「この双子はさ、あの木馬で有名なトロイの国の王の末裔であるレア・シルウィアっていう女性と、軍神マールスとの間に生まれた子供で、大きくなるまで多くの受難を受けて、やがてローマ王になるって話しなんだよな」

 

私「まさに、ヨーロッパ神話だなぁ」

 

O「だろ。途中で川に流されたり、狼に育てられたり、羊飼いに拾われて育てられたりするんだよな。まさに、西洋三種の神器だって思わないか?」

私「なんで?」

 

O「いいかぁ、日本の三種の神器『鏡』『刀』『勾玉』って、神武帝における、それぞれがそれぞれのシーンで必要な物だったじゃないか。それは、ローマ建国神話も同じで、川・狼・羊っていうのも、それに対応するって気がするなぁ。

 日本とローマの物に対する意識のちがいだけだと思うんだよ。

  だけど、残念なのはさ、ビーナス神がどこにも出てこないんだよなぁ・・・」

 

私「・・・・・・」

 

    行く春や女神は老いず二千年(佐藤春夫

醍醐の花見

 大学地下食堂でのハチヤ君との話し。

私「ああぁぁ・・・桜もおわりだねぇ・・・」

ハ「そうですねぇ・・・大阪の桜は造幣局の通り抜けでほぼおしまいですもんねぇ」

 

私「そうだよね。今年は通り抜け行ったの?」

ハ「いいえ、行けなかったんですよね。それで思い出したんですけど、秀吉が開いた『醍醐の花見』は旧暦3月で新暦では今日あたりなんですって」

 

私「へぇぇぇ~~~・・・あの有名な『醍醐の花見』って今頃なのかぁ・・・だけど、大阪でももう桜は散ってしまってるのに、緯度・経度がそれほどちがわない京都でも桜は散ってしまってるんじゃないのかねぇ?」

 

ハ「そんなことないと思いますよ。醍醐ってわりと山の中にあるじゃないですか。気温も大阪よりは低いし、何より、秀吉が豪華な花見をしようとして、700本を集めて大花見を開催したんだから、ちょうど咲くように、いろんな桜を植えてるんでしょ」

 

私「なるほど・・・だけど・・・桜の花見っていつからあったんだろ?高校の国語なんかじゃ、貴族は梅を見て宴会をするって言うことじゃなかったっけ?」

 

ハ「ええ、なんでも、きっかけは遣唐使の廃止があったことだそうですよ。いわゆる国風文化ですね。桜を愛でるってまさに、日本じゃないですか。

 平安時代の有名な歌でも

見わたせば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりけり』(『古今集』巻一春上、素性法師

                        なんていうのがありますもんね」

 

私「へぇぇ~~~山の上から下を見たらピンクに染まった街かぁ・・・・・

          いいなぁ・・・だけどちょっとエロッティックすぎない?」

ハ「・・・・・・・・」

 

     夭々と朧は吾にぶつかりぬ (岡井省二)

あざみ

 ある大学の研究室で、国文学者のF先生と話していた。

 

私「先生、そろそろ穀雨でしょ。畑仕事は始まりましたか?」

F「はは・・・いやぁそれより、今、原稿書きにいそがしくてねぇ。畑仕事どころじゃないんですよ。学校からの帰り道で、春の花を愛でるのがせいぜい自然との戯れですかね」

 

私「春の花ですか・・・」

F「ええ。  ♪ 山には山の愁いあり・・・咲しあざみの花ならばぁ・・・

                                                      (『あざみの歌』(作詞:横井弘 作曲:八州秀章)

         なんてね。知りませんか?」

私「ぇぇ・・・」

 

F「そうですか、まぁちょっと古いからねぇ。私が大学生のとき、はやった曲で今なら倍賞千恵子なんかが歌ってるんですがねぇ。

      あざみ。野原で紫色のぼんぼりのような花をみたことがないですか?

         葉っぱはちょっとぎざぎざしてトゲもあるんですがね。

                                                 野の花の典型で、素朴感あふれる花なんですよ」

 

私「見れば分かるかもしれませんが・・・」

 

F「文学的にはね、あざみっていうのは

              「あざむ」つまり「興ざめする」っていう意味からきてて、

          手折ろうとするとトゲが刺さって痛い思いをするということなんですね。

        だけど、見ている分には、凜としていて素朴で美しいんですがねぇ。

                  『花は賤のめにもみえけり鬼薊』(芭蕉)とか、

                  『富士に在る花と思えばあざみかな』(虚子)なんて、

                                                                    俳句ではちょっと否定的なんですよね」

私「へぇぇぇ・・・」

 

F「だけど、僕はね、長塚 節の

          『口をもて 霧吹くよりも こまかなる 雨に薊の 花はぬれけり』とかね、

       山頭火

          『あざみ あざやかな あさのあめあがり』っていう句の方が好きなんですよ。

        細かなみずしぶきのなかに、紫色の花がさえざえとして、

                                                                                  いいと思いませんか?・・・」

 

私「なるほどぉ・・・・」

 

             おにあざみ たおやめのごと はじらひて(のりもよしあき)