♬ ・・・楝(おうち)散る川べの宿の
門(かど)遠く水鶏(くいな)声して 夕月涼し 夏は来ぬ・・・♪
(『夏は来ぬ』作詞:佐々木信綱 作曲:小山作之助)
ある日の夕方、大学の坂道を、駅に向かって、
東洋法制史専攻のハチヤ君と歩いていた。
ハ「♪フンフン・・・おうちちる かわべのやどの~ かど とぉくぅ~・・・」
私「うん?『夏は来ぬ』のメロディだよね?その歌詞なに?」
ハ「はは・・・知りません?夏は来ぬの第4番の歌詞」
私「なんとまぁ・・・マニアックだねぇ・・・」
ハ「これって、初夏の風景にぴったりでしょ?いいんですよぉ」
私「そうなの?よく意味が分からないけどなぁ・・・
歌詞を知らないこともあるけどさ」
ハ「この4番は、初夏の夕暮れのフンイキなんですよね。
どこかの田んぼが並んだ風景を、
夕暮れに川沿いの旅館の窓から外を眺めてるんですね。
おぼろ月が出て、どこかでクイナっていうみずどりが鳴いてる。
そこにどこからともなく、良い香りがするんですよねぇ・・・」
私「え?かおり?なんで?」
ハ「それは、楝っていうのがミソなんです。おうちって知ってます?」
私「おうち?家の意味のおうちじゃないの?」
ハ「ちがいますよぉ、もぉ・・・家は散らないでしょ!
楝って植物の栴檀(せんだん)のことを言うんです。
ほら、『栴檀は双葉より芳し』っていうじゃないですか」
私「ああ、聞いたことがある。栴檀っていうのは香木なんだって」
ハ「そうでしょ。それに栴檀の開花時期って5月で紫色のきれいな花がさくんですよ。
全部あわせたら、一幅の絵になりません?」
・・・・なるほど ・・・夏は来ぬ~・・・
しづかなる水は沈みて夏の暮(正木ゆう子)