いつものように、ある大学の研究室でお茶を飲みながら、F先生と話していた。
私「先生、今日は『御事始め』でしょ。例のように、またお友達たちが集まって、飲み会ですか?」
F「あれぇ・・・御事始めなんて・・・よく知ってたねぇ?」
私「ははは・・・前に先生が『御事納め』の話しをされたから、調べたんですよ。旧暦2月8日が農事なんかを始める『御事始め』なんでしょ?」
F「そうそう。だけどね、今日はそれよりも、娘や奥がたなんかの『針供養』の方が、わが家では優先するんですよ」
私「え?はりくよう・・・・?」
F「知らない?」
私「ええ・・・・」
F「まぁ、この頃はお針子さんなんていう語も使うことがまれだものね。
針供養っていうのはね、折れたり錆びて使えなくなった針を供養するっていうので、
地方によってはコンニャクや豆腐なんかに突き刺して、
役立ってくれた針にお礼をいうんですよ。
そのとき、昔から女性たちが集まって
わいわい言いながら お饅頭をたべたり、お茶を飲んで話したりするんですね。
大阪なら、北野の天神さんで針供養の行事が催されたりね」
私「あぁぁ・・・なるほどぉ・・・」
F「ちょっと、華やかでしょ?たとえば、虚子は
賃仕事ためて遊ぶや針供養
なんていう句を作ってますからね。
女性の楽しみな日でもあるんでしょうね」
私「なるほど・・・」
F「それでね、わが町内でも近所の奥さん方が集まって、わいわいやるんですよ。
それで、僕はひさしぶりの独身生活でねぇ・・・」
私「先生・・・顔が笑ってますよ・・・
また近所のひとと集まって飲み明かすんでしょ?・・・」
F「はは・・・・」
針供養といふことをしてそと遊ぶ(後藤夜半)