昭和60年頃、ある学校の講師室で、国文学者のF先生とお茶を飲みながらの話し。
私「F先生、明日は日曜日ですね。やっぱり、先生は文学ざんまいですか?」
F「いえぇ、そうはいかないんですよ。私は家の近くに小さな畑を借りてるんですよね。それで、明日は『おことおさめ』だから、近所のひとたちと、お事終い(おことじまい)のお祝いをしないといけないんですよね」
私「おことじまい?」
F「ああ・・・あなたには分からないか。江戸時代ころからの農家の慣習ですよ」
私「どういうことですか?」
F「ええ、12月は農作業が終わるでしょ。そのとき、だいたい8日くらいなんだけど、その日、農作業の終わりですっていうので、農家では、昔はどの家でも
『こんにゃく、里芋、にんじん、あずき』なんかを入れた『御事汁』
を作って区切りをつけるんですよ。
お祝いといえばお祝いなのかなぁ・・・
それで、みんなで集まることになってるんで、大変なんですよ」
私「先生、顔がゆるんでますよぉ・・・もちろん熱燗付きでしょ?」
F「ははははは・・・・・・」
冬青空肝食うてゐる男たち(飯田龍太)