昭和60年頃、ある大学の講師控室で、国文学専攻のF先生と食べ物の話しとなった。
F「ところでのりも君、節分には鰯を食べましたか?」
私「え?いわし・・・ですか?僕・・・あれ・・・好きじゃないんで・・」
F「あれまぁ・・・おいしいのに・・まぁ鬼と一緒ですねぇ・・・」
私「え?どういうことですか?鬼と一緒って?」
F「柊鰯って知ってますか?」
私「あの、玄関のところに鰯の頭を指した柊をさしておくやつでしょ。子供の頃は、母親がよくやってましたけど・・・」
F「そうそう、節分の習慣で、あれは魔除けの柊と、イワシの焼くけむりで鬼が逃げ出すからって言うんですよ」
私「はは・・・ひどいなぁ・・・鬼あつかいですかぁ・・・」
F「栄養価が高いんだし、食べないと。それにね、柊鰯は歴史があるんですよ?
たとえばね、『土佐日記』には元日条(がんじつのくだり)で
『小家の門のしりくべ縄のなよしの頭、柊ら、いかにぞ』
って記述があるんですよ」
私「え?どういう意味ですか?」
F「直訳するとね、
『ある家の前のしめ縄にボラの頭がさしてある柊がかざってあって、
なんとまぁ信心深いことよ』
って意味なんでしょうね」
私「え?『なよし』って魚のボラのことですか?」
F「そうですよ」
私「いいなぁ・・・ボラなら食べたいです!!」
F「・・・・・・・」
ひとの来て柊挿して呉れにけり (石田波郷)