ある学校での仕事帰り。
空が紅に染まり始めたころ、国文学者のF先生と駅へ向かっていた。
そのとき、F先生が急にある家の垣根際に寄って行って、そこに咲いていた赤い花を眺めだした。
私「先生、どうしたんですか?」
F「いやぁ、学校に来るときには気がつかなかったんだけど、この花、ボケの花ですよ。そろそろ咲きだしたんですねぇ・・・」
私「え?ボケの花?」
F「そうですよ、木に瓜と書くボケです。知らない?」
私「ええ・・・冬の赤い花っていうと、私は椿とか山茶花くらいしか・・・」
F「そうなのかねぇ・・・。このボケは冬木瓜って言ってね、
春にまだならない頃から咲くボケだってされるんです。
季節感がよく出て、昔から愛でられるものだから、
たとえば、
寒木瓜のほとりにつもる月日かな
っていうような、
まさに12月っていう 発句をつくってるんですよ」
私「へぇぇぇ~~~」
F「さぁ、急ぎましょうか。寒くなってきた。わが家の熱燗が恋しい」
私「ははは・・・・・」
寒木瓜を見て足りてをり年の瀬に(水原秋櫻子)