授業が終了した夕方、講師控室での国文学者F先生とのはなしの続きである。
F「さて、のりも君。この時期の季語に『帰り花』って言うのがあるんですが、知ってる?」
私「え?さあ・・・」
F「たとえばね、
『凩に匂ひやつけし帰り花』
っていう芭蕉の句なんかがあるんですよ」
私「芭蕉が、どこかの帰り道に、花を持った知人にでも遭ったときの句ですか?」
F「いやぁ、そんな単純な状況の句じゃないんですよ。芭蕉が奥の細道を終えて、
最後の旅の途中、岐阜の大垣で弟子の家に立ち寄ったとき、
梅だとおもうんですがねぇ、
季節はずれの花が、ぽつん と咲いているのを見て詠んだんですよ。
この狂い咲きといわれている『帰り花』が、
具体的に何を指すのか分からないっていうのが定説なんですがね」
私「芭蕉は、その花が自分のように思えたんですかねぇ・・・」
F「 さあ・・・分かりません・・・
さて、われわれも、狂わないうちに帰りましょう」
いま少し時を惜しめと帰り花(鷹羽狩行)