昭和53年12月。
大学の研究室へFが、おおきな紙袋いっぱいの みかん を抱えて入ってきた。
F「おはよう・・・」
A「ええ?どうしたんだよ、何かかえてんだよ?」
F「 ははは・・・
『 街をゆき 子供の傍を通る時 蜜柑の香せり冬がまた来る 』
(木下利玄) 」
B「なんだよそれ」
F「情緒のないやつらだなぁ。駅を降りたらさ、角のところで、みかんを山のように積んでキロ100円で売ってんだよな。すごく安いから、みんなで食べようと思って買ってきたんだよ」
A「おお、うまそうだな。おれもらうぜ」
B「おれにも、くれよ」
みんなで食べていて、
C「だけど、こんなにたくさん買ってきてどうすんだよ?」
A「そうだよ・・・一籠分くらいでよかったろう?」
F「 『 駅を降り 蜜柑の傍を通る時 売り娘の姿 目ぞ奪われむ 』
ってね」
A・B・C「・・・・ばか・・・・」
つれ~に剥いたる蜜柑あまかりき(日野草城)