norimoyoshiakiの日記

昭和40年の後半からの学生生活と、その後のことを日記にしています。ご意見をお待ちしています。

刑法各論の補講

 2月中旬、後期試験中である。

開始のベルと同時に黒板に問題がチョークで書かれる。

問.暴行罪と傷害罪との区別につき論ぜよ。

 

しめた、予想通り。うんとうなずいて、戦闘開始となった。

 

 1か月前のこと、刑法各論のU教授が前期に休講とした講義分の補講を行うとの掲示があった。

U教授はこの年3月に定年退職される名物教授であった。

 

 まず、明治生まれの厳格法学者。常に着物姿で袴をはいておられて、講義も当然、その姿でなさる。

とはいえ、学生に対して大声で叱られることは決してなかった。

むしろ、やさしいおじいさんといった感じすらあった。

 

 掲示板には、補講参加者は必ず、ノートと筆記用具と六法を持参するようにとの指示。

2日間つづけて朝9時から夕5時までのぶっ続け補講である。

わたしは、この教授と講義がきらいではないというか、どちらかといえば分かりやすくて好きであり、参加することに決めていた。

 

 当日、石油ストーブが赤々と点いたなか、先生は、古いノートとアルミ製の灰皿を持って、現れて、教壇に立たれる。

マイクをセットして「おはよう、皆さん」とあいさつをなさると、その後、ノートを教卓に開かれて椅子に腰をかけて、

「はい、各自、自分のノートを開いて。これからノート講義を始めます。わたしが内容をよみあげてゆくから、筆記するように」と第一声。

 

 チョークを持つと、第一章 身体に対する罪と、縦書きの後、「しんたい に たいする つみ」と読み始められる。

みんなが必死でノートをとりはじめるのであった。

 

 遊んでいるひまはないし、細かく内容を考えている余裕はない。

およそ30分から40分の読み上げの後、先生の解説が始まる。

わたしは、「あぁ、これがうわさに聞いたU先生のノート講義かぁ!」という思いであった。

3年上の先輩が、わたしが1年生当時、この話しをされたことがあったのを思い出した。

 

 ノート講義というものを初めて経験したのである。

この読み上げ解説の繰り返しが続いて、1時間半みっちりの講義後に、休憩にはいるのである。

 

 終了ベルが鳴ると、先生が「10分間の休みとします。わたしは、ここでタバコを吸うけれど、君たちもタバコをのみたい者は、外の灰皿のあるところへゆくように。教室内ではダメだよ」とのおことば。

 

そのあと、懐からタバコを出されて、マッチを擦って、タバコをゆっくり、くゆらせておられる。

実に絵になる姿であった。

 

 学年末試験の問題は、このときの最初に話された講義内容である。

おもしろいもので、先生の当日の姿と話しぶりとが答案作成をしているときにも思い出され、自分では、すらすらと解答できたことも併せて忘れられない思い出である。

 

いろいろな意味でU先生の講義、おもしろかったなぁ・・・・・・。

 

      冬の夜の語り部となる師のたばこ(小島千架子)