「君がのりも君?」
先生が教室に入って来られた第一声である。
「はい、よろしくお願いします」と答えたが、教室はがらぁ~んとして、わたし一人であった。
ある程度、分かってはいたが、想像以上に厳しかった。
心の中で、えらいことになった、やっぱり俺ひとりしか、この講義を受けないんだなぁ・・・という衝撃。
商法第4部の大学院講義。
先生はその道では、第一人者のひとりとして有名な、K田先生である。
正直、期待半分と恐怖半分が入り混ざっていた。
恐怖ってなんだよと思われるかもしれない。
しかし、わたしは商法を専攻したが、学部では商法第4部にあたる海商法・保険法を受講していないのである。
これはきわめて不遜またははずかしいことでもあった。
しかし、同時に、この意識が恐怖を呼ぶのである。
K田先生は関東のご出身で、標準語を使われて、淡いブルーのシャツに特注のカフスボタンで袖を留めて、チェックのおしゃれなジャケットを着て現れた。
完全なるおしゃれ紳士。
はじめは、とりとめもない雑談から緊張をほぐすように話しが進む。
やがて、30分くらい経ってから、
「さて、それはそうと、のりもくんは第二外国語は何でした?」と尋ねられた。
「はい、ドイツ語ですが」と答えると、
「そうですか。では来週からアブラハム(Abraham)のゼーレヒト(Seerecht:海法)から読み始めましょうね。原本を来週持ってきますから、読んでゆきましょう。では、来週」と言って、帰って行かれた。
これが、わたしの法学外国文献との格闘の最初となった・・・・
・・・ひえぇぇぇ~~~日本語じゃないのかぁ・・・(汗)
船曳くを仕事始の男かな(鈴木真女)