ある大学の講師控室で国文学者F先生との話し。
F「いい気候になってきたねぇ・・・だけどまだちょっと寒いけど」
私「先生の晩酌はまだ熱燗ですか?」
F「そう。それが一日のいちばんの楽しみだからね。春になるといいアテがでてくる
からねぇ・・・
菜の花でしょ、早出の筍でしょ、それから・・・わかめ・・なんかねぇ・・・
あえもの、煮物にぴったりでしょ・・・」
私「はは・・。だけど野菜ばっかりですねぇ」
F「ええ まぁそうですけどね。4月は冬が終わったばっかりだから、まだ冬の魚がおいしいでしょ。そうだ酒盗って知ってますか?」
私「しゅとう?」
F「ええ・・・かつおの内臓を塩漬けにしたいわゆる塩辛なんですがね・・・
『塩辛を壺に探るや春浅し』
っていう漱石の句があるんですよ。
この句どう思います?」
私「えぇ?・・・・」
F「はは・・・分かりませんか。なんて言うことはないんですがね。
塩辛ってだいたいイカや魚の内臓なんかを秋から冬にかけて塩漬けにして
瓶なんかで保存する保存食でしょ。
だから、冬の間にごはんのおかずや酒のアテにするわけで、
それが冬が明けて食べ終えてなくなるんでしょうね。
この句って時の経過をうまく言い表していて・・・
ほのぼのとするんですよね・・・いいと思いませんか?
僕はもっぱら酒のアテに使おうと思ってるんですよね」
私「・・・なるほどぉ・・・だけどアテにするのは俳句ですか酒盗ですか・・・?」
F「うん?もちろん両方ですよ」
私「・・・・・」
春宵のこの美しさ惜しむべし(星野立子)