昭和60年ごろ、ある大学の講師控室で、国文学者のF先生と話していた。
F「そろそろ、雨水ですねぇ」
私「先生、二十四節気の雨水のことをおっしゃってるんですか?」
F「あれ?そんなこと知ってるんですね?見直しましたよ」
私「はは・・・天気予報でそんなことを言ってましたから・・・
それに先生には畑仕事のキッショになるんでしょ?」
F「はは・・・なるほど。それじゃぁ、農事と直接の関係のない雨水の話しをしましょうか?」
私「え?」
F「万葉集巻十にね。
梅の花散らす春雨いたく降る旅にや君が廬(いほり)せるらむ
(よみびと知らず)
っていう歌があるんですよ。
知ってますか?この相聞歌」
私「いいえ・・・知りません・・・」
F「あのね、相聞歌って恋人どおしとか、夫婦や親子の間で交わされる情愛の思いをあらわすんで、合い聞くっていう相聞だってされるんですよね。
この時期、冬からほんのちょっとだけ暖かくなって
降る雪もみぞれまじりになってくるでしょ。
まぁ、だから雨水なんだけどね。
この歌は、これくらいの時期に詠われたんじゃないかっていわれてますね。
どう思う?」
私「はぁ・・・」
F「独り者の のりも君には、無理かぁ・・・ラブソングなのになぁ・・・」
私「・・・・・・」
雨水より啓蟄までのあたたかさ(後藤夜半)