昭和61年ごろのこと。ある学校の入学式に参列することになり、国文学者F先生と控室で話していた。
私「あぁ・・・新学期がはじまりますねぇ・・・体育館は寒いでしょうねぇ・・・」
F「あれ?のりも君、厚手のシャツやズボン下を履いてこなかったの?もう若くないんだから、無理しちゃいけませんよ」
私「ははは・・・・」
F「『 綿をぬく旅ねはせはし衣更 』(九節)ってね。
旧暦4月1日をわたぬき(綿抜き)って言って、
いままで綿入れを着ていたのを
綿をぬいて身軽になる衣替えの時期だとされるんですよ。
その伝でゆくと、今日はまだぎりぎり綿入りの冬着でいいんですよ」
私「え・・・四月一日って書いて『わたぬき』って読むんですか?」
F「そうですよ。おもしろいでしょ。平安時代からそういわれてるんでしょうね。
旧暦4月1日がころもがえなんですよ」
私「へぇぇぇ~~~・・・」
F「だからね、
『衣がへ十日はやくば花ざかり』(野波)
っていう句もあって、
今日なんかは桜が満開だから、まさに衣替えの前なんでしょうね」
私「なるほどぉ・・・・」
♯ 新入生のかたがたは、総合体育館にお集まりください・・・
構内放送でのアナウンスが流れる。
F「さぁ・・われわれも行きましょうかぁ
『花守や白きかしらを突あはせ』(去来)
というところですかねぇ・・・」
私「・・・・???・・・・」
花吹雪ふぶきにふぶくゆくへかな(久保田万太郎)