昭和60年頃、夕方になって国文学者のF先生と帰宅中に、フワァ~とよい匂いが鼻をくすぐる。
私「先生・・・いい匂いがしますね・・・沈丁花・・・」
F「『春されば まず三枝(さきくさ)の 幸(さき)くあらば
後にも逢わむ な恋そ我妹』」
私「え?」
F「柿本人麻呂の歌ですよ。恋歌なんですよ。知らない?」
私「えぇ・・・」
F「『春になったら、一番はじめに咲く香り高き沈丁花のように、
無事でいたならばまた会うこともあるでしょう。恋に苦しまないで愛しき人よ』
ていうくらいの意味なんでしょうね。
三枝っていうのは今でいう沈丁花のことだっていわれてて、この歌、
三枝と幸がかかり言葉になってるんですよね」
私「なるほど・・・」
F「私の解釈ですよ。人麻呂がどこか地方に赴任するのに、
自分の恋しい人と春の優しい花とを重ね合わせて、
別れを惜しんでいるかのように思えませんか?」
私「あれ・・・F先生もロマンチストですねぇ・・・
奥様との、なれ初めでも思いだされたんですか?」
F「のりも君、おとなをからかってはいけません!」
・・・・F先生の顔は真っ赤でありました・・・