昭和53年のこと。Yの部屋で話しをしていた。
Y「おい、のりも。昼めし食ってきたのか?」
私「ああ、済ませたよ。きのうの『ばら寿司』が残ってたからさ」
Y「お、ばら寿司かぁ・・・いいなぁ」
私「はは・・・春だもんなぁ。おふくろにしたら簡単でいいんだってよ」
Y「そうか、だけどなんでばら寿司っていうか知ってるか?」
私「え?具がばらばらに入ってるからじゃないのか?」
Y「うん、そうだよな。だいたい関西じゃぁ、
酢飯にじゃこ・甘辛く炊いたしいたけ・こうや豆腐・たけのこ・かんぴょう・
白身の魚を焼いてほぐしたものを入れてまぜるんだよな。
彩りに人参なんかをいれることもあるしな。
最後に錦糸卵をまぶして完成だな」
私「ああ、わが家でも昔からそんなもんだなぁ」
Y「ところがさ、東京じゃあさ、ちらし寿司っていうものがあって、関西のばら寿司とは似て非なるものがあるんだぜ」
私「え?テレビCMで、大物演歌歌手が
『♪ ちぃ~らぁし~~ずしぃぃなぁぁあら~』って歌って、
作ってるのを見たら、あれ大阪でいうばら寿司じゃないか」
Y「あれは全国向けだから、酢飯をつくるのにつかえますよって言ってるだけなんだと思うぜ。
東京のちらし寿司っていうのは、
酢飯の上にいろんな刺し身をのっけて
きれいに飾った桶寿司のことをいうのがふつうなんだぜ」
私「へぇぇ~~~」
Y「それでな。新聞読んでたら子規句の解説があったんだけどさ、
子規は鮨が好きだったらしくて、たくさんの寿司の句をつくってるんだってさ。
そのなかに、
『うつくしきものふりかけぬちらし鮨』(子規)
っていうのがあってさ。
この句に合うのは『ばら寿司』の方だって思わないか?」
・・・・・うンンン・・・・・・
ゆふ暮のあるもわすれし春日哉 (寥松)