昭和53年ごろ、大学の坂道はイチョウの葉でいっぱいになっている。
この季節は少し寒いがきれいな黄色の道となっていて、ちょっとたのしいものであった。うしろから、後輩のハチヤ君の声が聞こえる。
ハ「おはようございます、のりもさん」
私「あ、おはよう。授業かい?」
ハ「ええ、いちょうがきれいに色づいて、いい気分ですねぇ。あ、そうだ、のりもさん、学校や神社でいちょうが多く植えられているのって、なぜだか知ってます?」
私「え?ちょっと待って、考えるから・・・・うん・・・学校や神社は物入りだから、ギンナンで収入をえるため・・・神社の建物は殺風景だから、秋くらいは黄色に染めてカラフルにするため・・・10月に出雲に行ってた神さまたちが帰って来るから、その帰り場所の目印のためとか・・・・」
ハ「ははは、よくまぁそんなに、たくさんの理由を思いつきますねぇ・・・。最後のなんて、『幸福の黄色いハンカチ』(昭和52年山田洋次監督作品)じゃないですかぁ・・・」
私「ははは・・・ちがうかぁ」
ハ「主な理由は、イチョウは水分の多い木で、燃えにくいからだそうです。つまり、神社や学校の建物防火の目的で植えられたんだっていうことですよ」
私「へぇぇぇ・・・・そうかぁ・・・それで、本当に効果があったの?」
ハ「それがね。反対に、本体が燃えて失くなって、イチョウだけが残るってことも多かったそうですね」
私「え、それだと、神様は焼け出されるのかぁ・・・怒ったろうなぁ・・・」
ハ「まぁ、山田洋次監督もそこまでは考えてなかったんでしょうね」
私「・・・???・・・・」
銀杏の落ちては空を深くせり(栗原米作)