norimoyoshiakiの日記

昭和40年の後半からの学生生活と、その後のことを日記にしています。ご意見をお待ちしています。

春宵一刻

 4月の半ば、友人Yの部屋で話していた。

私「なぁ、温かくなってきて、夜でも窓を開けたままですごせるようになってきたなぁ」

Y「ああ、そばの川の桜も散り時だけどきれいだぜ。夜はぼんぼりに照らされて妙になまめかしいぞ」

 

 そのとき、ラジオから、詩吟が聞こえてきた。

♪ しゅんしょぉ~ いっこくぅぅぅ~ あたいぃぃぃぃ~ せんきん~~~・・・♪

 

Y「うん?どっかで聞いたことがあるぞ」

といって、本棚を探しながら、高校時代の漢文のテキストを引っ張り出してきた。

 

Y「あったあった、これだ。『蘇東坡(そとうば)の春刻(しゅんこく)』。いいかぁ

     春宵一刻直千金 花有清香月有陰 歌管楼臺聲細細・・・・

                        っていう、七言絶句の漢詩だよ」

 

私「よくまあ、覚えてんなぁ」

Y「ああ、この春宵一刻っていうのがなんとなくウキウキしてて好きだったんだよなぁ。まったく、今の時期だろぅ?」

 

私「どう訳すの?」

Y「えっと、たしか、『春の宵のいっときは千金のねうちがあるほど素晴らしい。花は清らかなかおりを放ち、月はおぼろにかすんでいるぞ』っていうことだろ。注意しなきゃならんのは、この宵というやつは、日本とちがって夜中の意味らしいけど、ま、わが国じゃあ、夜まだ更けないころと解釈されてるがな」

 

私「おおぉぉ、写実的だなぁ」

Y「情緒のないやつだなぁ。この詩は冬が終わって春のおだやかさと、春の夜で、そこはかとなき淡い色彩が感じとられなきゃならんのだよ。いわばパステルカラーのような美しさじゃないか」

 

私「おお、すごい。すまん、大したもんだ。詩人だねぇ」

Y「えへん。まぁ、これは先生の受け売りだけどな」

私「なぁんだぁ・・・・」

 

      ふと春の宵なりけりと思ふ時(高浜虚子