海のなかである、
急に足がつった。水中にからだが引き込まれる。
Hとわたしの二人しかいない
私「あかん!!足つった」。足がけいれんをおこしていた。
H「がんばれ。のりも」
沈んでゆくのが分かった。
意識が遠のきそうになったとき、急にからだが浮いて海面に出た。
うしろから、必死でHが背中から押して泳いでくれている。
ひと息ついて、遅いがやがて手足が動くようになった。
しかし、岸までまだとおい。
そこから、20分ほど泳いだであろうか、やがて足が届く深さに来た。
Hが
「のりもぉ、足がつくぞ。ここから歩いて岸までゆこう」と叫ぶ。
わたしは、まさに這う這うの体で岸までたどり着いた。
二人して、あおむけに岸で寝ころんでいた。
サークル合宿で、日本海のとある県に来ていた。
合宿勉強休日にみんなで、海にでて、ボートを借りて1キロほど先の岩礁に行ったのであるが、つまらない。
わたしとHはこんなところで日向ぼっこするよりは、泳いで岸へ帰ろうと思いついたのである。
すぐ、到着するだろうと甘くみていた。
結局、海の怖さを思い知らされるはめとなったのである。
泳いでも泳いでも岸に着かない。
かれこれ1時間以上は泳いでいた。
地獄の釜が開いていたというのは、このことであろう。
Hがいなければ、おそらくわたしは、このときに向こうに行っていたに違いない。
岸でひっくり返っているとき、息ができるありがたさと、友情をしみじみと味わった。
黙々と供えものして盆仏(高澤良一)