ゴツン、ゴツンと音がして、目から火が出た。
「こら、お前ら!飯は後だよ、先に酒を飲め。飯なんか先に食ったら酔わねえだろうが!」
鬼の形相でげんこを振り上げる4年のFさん。
どうやら、ごはんは最後の最後というのが『酒飲みの慣習』であるらしい。
みんなが吹き出したり、苦笑いしていた。
わたしとHは仕方がないから、お膳の前に戻り、おかずを食べ始める。
合宿最終日の宴会のこと。
顧問の先生たちの、長いお説教がおわって、乾杯後すぐのことである。
おなかがぐうぅぅと鳴っているわたしとHは顔を見合わせうなずくと、すぐさま宴会場の端に置かれた、おひつに向かって猛ダッシュ。
ちゃわんにごはんをヨソおうとした瞬間のできごとであった。
近くの3年生が、
「ばかだなぁ、お前ら。もうちょっと待てよ。あのFさんは、あと5分したらべろんべろんになるから、わけが分からなくなるし、そうしたら、他の4年が止めてもくれるのに」
しかし、飯を盛りに行って殴られるのは、訳が分からなかった。
まったくもう、ここは軍隊かよ・・・・酒飲みはかなわないなぁとHと話していた。
まあ、宴会の席で先にごはんを食べるのは、酒飲みにすれば雰囲気を壊すというのだろうが・・・・。
われわれが4年になったら、このサークルでは、『酒飲みの慣習』は廃止、と心に決めた。
めしが出て三日月の出る宴つゞく(穴井太)