ある大学の講師控室でコピーを整理していると、
国文学者のF先生がやって来られた。
F「おや、のりも君夏休みなのに、資料集めですか?」
私「ええ。先生もお仕事ですか?」
F「ちょっと、9月からの講義の準備があってね。そろそろ帰るんですが、
お茶を一杯飲んでゆこうと思って来たんですよ。
今日は、地蔵盆の仕事があるんでね」
私「地蔵盆ですか?」
F「ええ。自治会の『祭り係』になってましてね。地蔵盆って知ってるでしょ?」
私「あの・・・子供のお祭り・・・でしょ?」
F「まぁ・・・まちがってはいませんがね。
地蔵菩薩が子供を守るっていうのは、ちょっとした信仰の変遷でね。
冥途で出会ったお地蔵さんが
地獄で苦しんでいるひとびとを助けているのに感銘を受けて、
京で六地蔵を彫ったってことがはじまりだっていわれてるんですよ」
私「え?冥土へ行くんですか・・・・」
F「まぁ、伝説ですからね。彼は行き来したっていわれてるんですよ。
その後、室町将軍が地蔵信仰をしたことから、
大衆にも広まったって言われてますね」
私「なるほど・・・それが・・子供を守る信仰へとすすむわけですかぁ・・・」
F「そうでしょうね。だから今日は子供たちには、
小さなおもちゃやお菓子を配るんですね。
おとなも子供が楽しいとうれしいでしょ?」
私「なるほど、先生も楽しみですね?みなさんとお神酒を・・」
F「いやぁ・・・地蔵は仏で神じゃないからねぇ・・・
今日の心境は若山牧水のもじりですね」
私「え?」
F「白玉の歯にしみとほる盆の夜の 酒はひとりで飲むべかりけり」
私「・・・・・・・」
まつすぐに酔うて更けたり地蔵盆(橋閒石)