昭和53年頃の春、レポート作成のため、大学へ。
大学の坂道を同学年で刑事法専攻のOと登っていると、糸のような雨が降って来た。
私「やれやれ、陽が照ってるのに雨だよ・・・狐の嫁入りだなぁ・・・」
O「ははは、古くさいこと言ってるよ。だけどそれ、どういうことか知ってる?」
私「え?どういうことって?」
O「学部での一般教養の民族学の講義で聞いたんだけどさ、
『狐の嫁入り』って狐火と関係するんだぜ」
私「狐火って、いわゆる野火のことか?」
O「一般にいう野火というのとはちょっとちがうんだよ。
野火っていうのは人間が意識して野原に火をつけたり、炎をあげる勢いの良い火な
んかを指すんだな。
だけど、 狐火っていうのは不思議の世界なのさ」
私「不思議の世界?」
O「あぁ。狐火っていうのは、火の気のないところに突然あらわれて、
提灯や松明の灯りが一列に並んだように進むんだよ。
それが一度現れては消えるっていう具合に見えるんだってさ」
私「うん・・・なるほど」
O「それはまさに夜に『狐が嫁入り行列』をしているかのように思えたから、
『怪しい』ってことの象徴になったんだよな」
私「うん。だけど、それとこの雨の状況がなんで、狐の嫁入りなんだよ」
O「お日様が照ってんのに、雨が降ってるだろ?まさに怪しいじゃないか」
私「怪しつながりか?」
O「そうだよ。反対にわれわれの勉強は『野火』だな」
私「なんで?」
O「今まさに、お尻から火がついて、炎上中で灰も残らない!」
私「・・・・・・・・」
春雨のやうに降り出すうれしさよ (松瀬青々)