昭和54年のこと、Yの家へゆくと、Yが自分の部屋で長い釣り竿の調子を見ている。
私「おい、何してんの?」
Y「おう、のりもぉ、竿の調子を見てるんだよ」
私「なんだ、新しく買ったのか?」
Y「いいやぁ、知り合いから借りてきたんだよ。これさぁ、竹じゃなくて、グラスファイバーで出来ててさ、むちゃくちゃ軽いんだぜ」
私「へぇぇぇ・・・それでどうすんだ?」
Y「どうするってお前、釣りをするんだよ、アユ釣り!明日から、和歌山のアユ釣りの解禁じゃないか。明日の晩から遠征すんだよ」
6月半ば、梅雨に入った中で、アユ釣りの解禁である。
季節としては少し寒いときもあるが、アユが海から川に戻って来る初夏である。
ひとつの風物詩ではあった。
私「お前そんな趣味あったっけ?」
Y「今年から始めたんだよ。釣りって一種のスポーツだからさ。俺スポーツ好きだろ?知ってんじゃないか」
私「だけど、アユ釣りっていうのは、むつかしいって言うぜ。お前、釣り方、知ってるのかよ」
Y「うん、だから先輩から本と釣り竿を借りてきた」
私「・・・・・・・」
ずかずかと川に突っ込み鮎を釣る(高澤良一)