norimoyoshiakiの日記

昭和40年の後半からの学生生活と、その後のことを日記にしています。ご意見をお待ちしています。

お香

  ♬ 春色の汽車に乗って海に連れて行ってよ

       煙草の匂のシャツにそっと寄りそうから・・・・

     I will follow you ちょっぴり気が弱いけど 素敵な人だから 

           心の岸辺に咲いた 赤いスイートピー・・・♪

      (『赤いスイートピー』歌:松田聖子 作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂

 

  坂道をハチヤ君と下っているとき、♪赤い~すいぃとぴぃぃ~と口ずさんでいる。

私「はは・・・出ましたアイドル好き」

ハ「もぉ・・・だけど、4月の歌にふさわしいでしょ。これ今はやってるんですよ」

 

私「うん・・・だけど、俺としては、スイートピーより沈丁花のほうがいいなぁ・・・香りもいいし・・・あれが匂ってくると春!って感じがするんだよなぁ・・・」

 

ハ「ええ・・・分からなくはないですがね。

      でももう、沈丁花はおしまいの時期でしょ。

      あ、そうだ。香りっていえば、今日は『お香の日』だって知ってます?」

 

私「え?なんで?」

 

ハ「お香って、香木を削って焚くでしょ。この歴史って古いんですよね。

       日本書紀推古天皇の時代の4月に、

       淡路島に香木が漂着したっていう記録がのこってるんですよ。

              これが貴族や皇室なんかの、香を焚く文化のはじまりじゃないか

                                                                                           って言われてるんです」

 

私「へぇぇぇ~~~流れ着いたのかぁ・・・」

 

ハ「ええ。今でも、薫り高い香木は東南アジア辺りに自生しているじゃないですか。

          当時もそうだったんでしょうね。

      それで、香っていう字を分解すると、『一と十と八、最後に日』になるでしょ。

           これすなわち十八日だから、今日が『香の日』なわけです」

 

私「おお・・・・・!!」

 

     掘りすてゝ沈丁花とも知らざりし(杉田久女)

歴史問題

 研究室で後輩で東洋法制史専攻のハチヤ君と雑談していた。

 

ハ「のりもさん、今日は徳川家康が亡くなった日なんですよ」

私「へぇぇ~~~、歴史好きはよく知ってんなぁ・・・」

 

ハ「それでね、いいクイズがあるんですよ。つぎの三つの時世の句は、徳川家康上杉謙信伊達政宗の三武将のいずれが詠んだものでしょうか。答えなさい?」

 

私「え・・・ちょちょっとまってよ」

 

ハ「いいですか、ゆっくり言いますよ。

  • 極楽も地獄も先は有明の月の心にかかる雲なし
  • 嬉しやと再び覚めて一眠り浮世の夢は暁の空
  • 曇りなき心の月を先だてて浮世の闇を照らしてぞ行く

              の三つです。さぁ、どうでしょう?」

 

私「ううウンンン・・・・①が上杉謙信、②が徳川家康、③が伊達政宗

 

ハ「あ、当たった!!!すごい、のりもさん。僕はね、これをみたとき、

   ①と③が謙信か政宗か迷ったんですよね。

   だけど、②の時世も平和なときまで生きた政宗に合いそうだなんて思って、

     迷って、全部間違えちゃったんですよね。それでね・・・・

      ここの月の解釈が・・・・で・・・」

 

私「・・・(亡くなった順に言っただけなんだけど)・・・・・・」

 

     うらうらと礎石めぐれり蝶も来よ (伊丹三樹彦)

エスプレッソ

 昭和60年頃、大学地下食堂でNやハチヤ君らと食後のカップコーヒーを飲んでいた。

 

ハ「ねぇ、のりもさん、コーヒーと言ったら、今日はエスプレッソの日なんだって、知ってます?」

私「エスプレッソ?」

 

N「イタリアンコーヒーだよ。デミタスカップで飲むやつ」

私「デミタスカップ?」

 

N「だめだ、こりゃ。ハチヤ君教えてやりな」

ハ「はは・・・うちの近くに、イタリアンレストランが出来たんですよね。この前、家族でお昼のランチを食べに行って、最後にエスプレッソが出て、そのウンチクを聴いてきたんですよ」

 

私「へぇぇぇ~~~」

N「今、世間でイタリア・レストランがはやってるだろ?」

 

私「へぇぇぇ~~~」

ハ「エスプレッソの始まりは、古くて、明治39年(1906)4月にイタリアのミラノで開かれた万国博覧会で、コーヒー業者が初めて振舞ったものなんですって。作り方としては、機械で豆に蒸気を当てて、圧力を加えてコーヒーを抽出するんですね。だから、そんなに多くの量ができないんですよ。だけど、濃くなるから、香り高いコーヒーになるんですって」

 

N「うん、俺も、イタリア語のEspressoって語が英語のExpressに当たるんで、急行とか急速っていう意味だから、すぐさま急に抽出するってことだって喫茶店のマスターから聞いたことがあるぜ」

 

ハ「うん・・・なるほど。そうでしょうねぇ」

 

N「分かったかよ?のりも」

 

私「急にそんなこと言われてもなぁ・・・おれは急より普通がいい」

 

N「・・・(ばか)・・・・」

 

     とんからとんから何織るうららか (山頭火

モナリザ

  ♬ Mona Lisa,   Mona Lisa     Men have named you   

     You’re so like the lady        With the mythtic smile・・・・

     For that Mona Lisa strangeness   In your smile?・・・・♪

                      (’’Mona Lisa”, Nat King Cole

 

  大学のコピー室で、しゃれ者Oと出会うと、コピーしながらムーディーな歌を口ずさんでいる。

 

私「お!ごきげんだなO」

O「うん?なんで?」

 

私「いやぁ・・・えらく甘いメロディな曲をうたってるからさ」

O「ああ、そうかぁ。これキング・コールのモナリサだぜ。知ってるだろ?」

 

私「え?」

O「知らないか?アメリカのナット・キング・コール

   有名なジャズ歌手で、50年代のヒット曲だよ。

    ピアノ演奏で歌ったスタンダードナンバーだぜ。

  ♪ モ~~ナ リサ モナ リサ メン ハフゥ ネイムデュ・・・ってね」

 

私「ああ・・・なんか聞いたことあるよぅな・・・

                           それスタンダードナンバーなのか?」

 

O「そうさ。だけどそれよりも俺さ、

      きのう電車で見かけた女の娘が 気になってんだよなぁ・・・。

   背がすらっとして、顔もきりっとして、笑顔のすてきな美人だったんだよなぁ・・・

      ♪  モォナリサ にたひとぉ~ モォみなァ~~ トレビアン~・・・」

 

私「・・・・・・」

 

                  いくたびの微笑いくたび花の冷 (黒田杏子)

かたくり

 ある大学での講師控室で本を読んでいると、国文学者のF先生がニコニコして、部屋に入って来られた。

 

私「先生どうしたんですか?何かいいことでもあったんですか?」

F「いえね、今、そこのうどん屋さんで『あんかけうどん』をたべてきたんですよ」

 

私「ええ・・・」

F「それでね、『あんかけ』の話しになって、『あん』って『かたくり』を使うでしょ。うどん屋のご主人と話してて、どうも『かたくり』ってどういう具合いに出来るのか知らなかったみたいなんですよね。それで、ひと講釈、語ってきましてね。気持ちよかったんですよ。のりも君は知ってる?」

 

私「いいえ・・・知りません・・・」

F「やれやれ、現代っ子は植物が身近じゃないもんねぇ・・・。

 あのね、『かたくり』って、植物学的にはユリ科の植物で、

   紫色のきれいな花が咲くんですよ。

 その茎からデンプンを取って、粉にしたのが『かたくり粉』なんですね。

 だけど、『かたくり』っていうのは、古来より春の花の代表で、

    たとえば大伴家持なんかも

    『もののふの 八十娘(やそおとめ)らが くみまがふ 

              寺井の上の堅香子(かたかご)の花』

           って詠んでるんですよ」

 

私「はぁ・・・?」

 

F「これを簡単に現代語訳するとね、

   多くの娘さんが入れ替わり立ち代わりお寺の水を汲んでいるよ、

    その井戸のそばにきれいなかたくりの花がさいているのは、

       まさに春だなぁ

               っていうぐらいでしょうかね」

 

私「ええ・・・」

 

F「それがうどん屋のご主人には、気に入ったみたいで、

  つぎに『かたくり』を使った新うどんを作ったときには、

   『かたくり』の意味の 堅香子 を使おうっていうことになってね。

          なんだかうれしくてねぇ・・・」

 

私「ははは・・・・なるほど・・・」

 

     堅香子の花に額田の王を戀ふ (上村占魚)

慣性の法則?

 大学地下食堂での話し。

みんながそれぞれ好きな物を注文してテーブルにつく。

 

O中「のりもさん?またトンカツ?よく飽きないねぇ・・・」

N「何も考えてないんだよな。お腹いっぱいになったらいいんだから」

 

私「うるせぇ・・・これが一番栄養がとれるんだよ。お前みたいに、いつもいつも麺ばかりじゃ栄養失調になるだろうが」

 

Y「だけど、のりもさんみたいに、午後からも机にへばりついてて、運動しないと、かえって病気になっちゃいますよ?」

 

私「もぉぉ・・・あんたまで。これは、おれの『慣習法』で、昼にトンカツで力をつけないといけないの!」

 

Y「それは、慣習法とはいいません!!!慣習法って法という語がつくかぎり、国家などの中央権力がなんらかの強制力を持つから法なんでしょ」

 

N「はは・・・のりもの負け。まぁ、せいぜい、のりも個人の『事実たる慣習』だろうな」

 

O中「それでも上等すぎますよぉ。せいぜい のりも『慣性の法則』でしょ。感性の法則かな?」

 

私「・・・・・・・・」

 

        あかるくまぶた閉じておることの春の日 (荻原井泉水

信玄忌

 昭和63年頃、大学の地下食堂で仲間たちとの話し。

ハ「のりもさん、今年の大河ドラマ見てます?」

私「え?武田信玄だろ?うん・・・たまに見るよ」

 

ハ「あれ面白いですよね。それでね、今日が信玄の亡くなった日なんですよ」

私「へぇぇ~~~そうなの」

 

ハ「きのう、歴史書を読んでたら、信玄の時世句があるのを見つけたんですよ」

私「うん。それで?」

 

ハ「時世句ってほんとにその人間の性格が出るんですね。

  信玄は

『大(たい)ていは地(ぢ)に任(まか)せて肌骨(きこつ)好(よ)し

     紅粉(べに)を涂(ぬ)らず自(みずか)ら風流』

                  って詠んでるんですよ」

私「え・・・・?」

 

ハ「戦国武将って二種類あるでしょ。

  今川義元って薄化粧をしたって有名じゃないですか。

  その対照にあるのが信玄じゃないのかなぁって。

  この歌、そのまま訳すとしたらですねぇ。

  ふつうに本来の肌のまま生きればよいのであって、

   顔にお化粧などしないでも本来、美しさのあるものであろう

                    というぐらいなんですね」

 

私「うん・・・・」

 

ハ「別にお化粧を非難したんじゃなくて、

  俺は無骨に本音で生きて死んでゆく

        っていう心意気なんじゃないんですかねぇ・・・」

 

私「・・・・(なるほど、そうなのかねぇ)・・・・」

 

      春一夢かのもの言はぬ人と会ふ (畑耕一)