norimoyoshiakiの日記

昭和40年の後半からの学生生活と、その後のことを日記にしています。ご意見をお待ちしています。

ヒヤシンス

 昭和60年頃、ハチヤ君たちと大学の坂道を下って、地下食堂へ。その途中。

 

ハ「あ。あそこにヒヤシンスが咲いてますよ。のりもさん」

私「え?あぁ・・・あれヒヤシンスかぁ。小学校の水栽培以来だなぁ・・・。だけど、ヒヤシンスって12月くらいに咲く水色の花じゃなかった?」

 

ハ「あれは、小学生の植物観察のために、10月くらいから水栽培で教室に置いて育てるから、12月に咲くんじゃないですかぁ・・・」

 

私「はは・・・そうなの・・・」

 

ハ「ヒヤシンスって春の題材になることが多くてですね、

 たとえば、白秋が

 『ヒヤシンス薄紫に咲きにけりはじめて心顫(ふる)ひそめし日』

                        って歌ってるんですよ。

       白秋らしくて春の恋ごころにぴったりするって思いません?」

 

私「え・・・・?」

 

そのあと食堂のテーブルで、ハチヤ君が

 

ハ「あのね、のりもさん『こころふる』ってこう書くんですよ。

  でね、『こころ』 と 『ふるい初(そ)め』に分けるんですよ。

 この『顫(ふる)』っていうのは、小刻みに震えうごくことっていう意味でしょ。

ヒヤシンスのような女性に会ったのか、あるいは、春のそんな時期になのか、

こうしたときに主人公が

   トゥックトゥックトゥクってちいさく心をふるわす恋心・・・

   初恋かなぁ・・・・いいなぁ・・・

           ね、そう思いません?」

 

私「・・・・・・ハハハ・・・・・」

 

     春来ぬと風憂かりけりヒヤシンス (水原秋櫻子)



酒盗

 ある大学の講師控室で国文学者F先生との話し。

 

F「いい気候になってきたねぇ・・・だけどまだちょっと寒いけど」

私「先生の晩酌はまだ熱燗ですか?」

 

F「そう。それが一日のいちばんの楽しみだからね。春になるといいアテがでてくる

からねぇ・・・

 菜の花でしょ、早出の筍でしょ、それから・・・わかめ・・なんかねぇ・・・

 あえもの、煮物にぴったりでしょ・・・」

 

私「はは・・。だけど野菜ばっかりですねぇ」

 

F「ええ  まぁそうですけどね。4月は冬が終わったばっかりだから、まだ冬の魚がおいしいでしょ。そうだ酒盗って知ってますか?」

 

私「しゅとう?」

 

F「ええ・・・かつおの内臓を塩漬けにしたいわゆる塩辛なんですがね・・・

     『塩辛を壺に探るや春浅し』

                 っていう漱石の句があるんですよ。

                      この句どう思います?」

 

私「えぇ?・・・・」

 

F「はは・・・分かりませんか。なんて言うことはないんですがね。

 塩辛ってだいたいイカや魚の内臓なんかを秋から冬にかけて塩漬けにして

 瓶なんかで保存する保存食でしょ。

 だから、冬の間にごはんのおかずや酒のアテにするわけで、

 それが冬が明けて食べ終えてなくなるんでしょうね。

  この句って時の経過をうまく言い表していて・・・

      ほのぼのとするんですよね・・・いいと思いませんか?

   僕はもっぱら酒のアテに使おうと思ってるんですよね」

 

私「・・・なるほどぉ・・・だけどアテにするのは俳句ですか酒盗ですか・・・?」

 

F「うん?もちろん両方ですよ」

 

私「・・・・・」

 

    春宵のこの美しさ惜しむべし(星野立子

絶叫歌

   ♬ 果てしない大空と 広い大地のその中で・・・

     歩き出そう明日の日に 振り返るにはまだ若い・・・

       こごえた両手に 息をふきかけて しばれた体をあたためて・・・・♪ 

                 (『大空と大地の中で』作詞・作曲:松山千春

 昭和60年頃、大学地下食堂でハチヤ君たちと食事をしていた。

 

ハ「ねぇ、のりもさん、昨日のヒットスタジオ見ました?」

私「え?見てないけどどうしたの?」

 

ハ「きのうね、松山千春が出て『大空と大地の中で』をうたったんですよ。

                          よかったなぁ・・・・」

 

私「♪大空とぉ~~~ はてしない~~~ って歌う、あの絶叫歌?」

 

ハ「もぉぉぉ~~~。 ♪ はてしぃない~~~おおぞらと~ で、

                                    歌詞がまちがってるでしょ。

                                        それに、ただの絶叫歌じゃありませんよ」

私「はは・・・」

 

ハ「僕はね、あの歌、

        五七調のくずれ五言絶句としての、現代詩だと思ってるんですよ」

 

私「え?」

 

ハ「歌詞が五五七・・・・って並んでるでしょ。

             それが現代語で表現されてるんですよね。

                             漢詩でいえば五言絶句じゃないですかぁ・・・

                          それにフォークソングなんだから、まさに現代詩でしょ 

                        現代版逍遥歌かもしれないなぁ・・・・

         歌詞から北海道のひろぉ~いおおきな大地が目にうかぶんですよねぇ・・・

                                                    いいなぁ・・・

                      ♪ いつの日か~しあわせぇぉ~ 

                                               じぶんの腕でつかむよぉ~~~・・・・」

 

私「・・・・・・」

 

                                 人あゆむ大地の冷えやはなぐもり (飯田蛇笏)

初仕事

 昭和60年頃の夕。大学の研究室に行くと、Nがみんなと話していた。

 

N「おぉ、のりもぉ。めずらしいなぁ、スーツにネクタイなんか締めて。どうしたんだよ。何かあったのか?」

 

私「言ってたろ。今日からK大での講義だよ」

 

N「お!大学非常勤としての初講義かぁ・・・

  ま、仕事だからスーツは当たり前かぁ・・・

      馬子にも衣装ってとこだな。で、どうだった?」

 

私「うん・・・びっくりした」

 

N「なんで?」

 

私「カラーだった・・・」

 

N「え?なんだよそれ?」

 

私「チャイムが鳴って、教室に入ったんだよな・・・

   それで教壇に立ったらさ、

       フルカラーの画面映像が目の前に広がってんだよ」

N「え?」

 

私「いままで、経済系の専門学校なんかで授業してたろ。

  あのときの教壇から見た映像は、いえば水墨画なんだよな。

  今日のK大は文学系の学部だろ。女子学生が多いこともあるんだろうなぁ、

    極彩色の西洋画なんだよ。

        あんなに違うんだなぁ・・・ほんと、びっくりしたよ」

 

N「ははは・・・フルカラーの西洋画かぁ・・・なるほどなぁ。それで?」

 

私「うん・・・色酔いしそぅ・・・頭がクラクラしてる・・・」

 

N「・・・ばか・・・・」

 

     ふり返り見て花の道花の中(稲畑汀子

ミンチカツ

 昭和60年頃、大学地下食堂で、O中君、ハチヤ君と食事していた。

 

私「なぁ・・・これミンチカツっていうだろ?この語源ってなんだろ?」

ハ「え?昔から おおさかじゃぁミンチカツ、東京じゃぁメンチカツ

       って言うぐらいしか知りませんねぇ・・・なんでだろ・・・」

 

O中「僕は以前に調べたことがあるんだよね。

   ミンチって英語のmince

    つまり『細かくきりきざむ』とか『ひく』っていう言葉からきてるんだよ」

 

私「おお!!さすが国際的な学問専攻者!」

O中「もう・・・ばかにしてるでしょ。教えないからね」

 

私「ははは・・・・・で?」

 

O中「メンチカツって東京のレストラン店主が明治時代に考案して、

   そのとき外国人にも分かる名前にしたいからっていうんで、

    ネイティヴに聞いたんだってさ。

  ひき肉を英語でなんて言うかって聞いたら

  ネイティヴミンス・ミートって言ったのをメンチって聞き間違えたんだとか」

 

私「え?ミをメと聞き間違えるかぁ・・・ほんとかなぁ・・・」

 

O中「あ?また疑ってるでしょ。もぉ・・・」

 

ハ「聞き間違えたかどうかはともかく、

  ミンスじゃなくてメンチになったのは江戸っ子らしくて、

                  可能性があるとおもいますよ」

 

私「なんで?」

 

ハ「だって、発音してみてくださいよ。

  『ミンス』カツっていうより、『メンチ』カツっていう方が

             よく聞き取れるし言いやすいじゃないですか。

   ミンスだとなんだかスカスカしてると思いません?

   江戸っ子って、しゃきっとしてないのって好きじゃないでしょ。

       まさにメンチですよ」

 

私「ううぅンンンンンン・・・・・」

 

O中「そうだ!そうだ!」

 

      春の日の人何もせぬ小村かな(子規)

デザイアー

  ♬  Get up   get up  get up    Burning love

                            やり切れない程 退屈な時があるわ あなたと居ても

                しゃべるぐらいなら 踊っていたいの 今は・・・・・

                                    まっさかさまに堕ちてdesire 炎のように燃えてdesire・・・

                                             Get up   get up  get up    Burning heart・・・・♪

                (DESIRE ― 情熱 ― 歌:中森明菜 作詞:阿木燿子 作曲:鈴木サブロー)

 

 大学仲間たちとの飲み会の翌朝。目が覚めた・・・アタマが痛い。

「・・・・うぅぅぅ・・・・飲みすぎた・・・・」

ラジオのスイッチを入れると、

♪まっさかさぁ~~~まに~ おちて でざいあああぁぁぁ~~~

と叫ぶラジオ。

 

 まさにサビの部分がきこえてくる・・・が・・・頭にひびく。

「うんうん・・・わかったよぉ・・・・欲望に負けて飲みすぎたんだから。追い打ちをかけるなよな」と思っていると

 

♬ Get up!get up! get up ! burning heart!!!!!

 

「もおぉぉ~~~~・・・・しかし・・・この歌詞・・・よく出来てんなぁ・・・・」

 

                          腕白う伸べて春眠覚めやらぬ(日野草城)

紅白まんじゅう

 大学仲間での飲み会は続いていた。

N「ところでさぁ、のりも。俺たちのこどもの頃って、小学校の入学式で紅白まんじゅうをもらったろ?」

 

私「ああ、そんなことあったなぁ」

 

ハ「あれって、どういうことか知ってます?」

 

N「え?赤白でおめでたいからじゃないの?お祝いの式典なんかで紅白の幔幕を使うじゃないか」

 

ハ「あれはですね、日本書紀に由来するっていう説があるんですよ。神功皇后が出産のときに、天から紅と白の幡が舞い落ちてきて、この出産が日本にとって大きな喜びとして、おめでたいことのあらわれになったんだって」

 

Y「へぇぇ~~~。僕はお祝いごとの象徴が赤であらわされ、終わりごとの象徴として白であらわされるって聞きましたよ」

 

ハ「ええ、ハレとケの思想でしょ。それもありますね。O中さん、欧米にも紅白の思想表現ってあるんですかねぇ?」

 

O中「う~~ん・・・あまり聞かないなぁ。源平合戦なんかで使う赤白ぐらいの、いわばread team―white teamといった単なるチーム分けに使うっていうぐらいのことしかないと思うよ」

 

ハ「なるほどね」

 

私「でわ・・・シメに中華まんじゅうでも注文しようか?」

 

全員「ええぇぇ~~~!!!シメは、まんじゅうじゃぁないでしょう」

 

     入学の祝のひとつ肥後の守(下城 宇良)