昭和60年ごろの昼。大学地下食堂への石階段をハチヤ君と下っていた。
雨あがりの階段が少し滑りそうであり、ツタや草花がからまっている。
私「おっと・・・あぶない・・・ころびそう・・・」
ハ「ははは・・・まさに『朝顔につるべとられてもらい水』
っていうしっとりした状況ですねぇ・・
あ・・あそこに朝顔も咲いてますよ」
私「そうじゃなくって・・階段に足とられそう地下食堂・・だろ?」
ハ「もぉぉ・・・加賀千代女の世界にひたってんのに・・・
まったく情緒も季語もないじゃないですかぁ・・・
まったくぅ・・・」
私「はは・・しかし・・・なんで千代女なの?」
ハ「今日は加賀千代女が亡くなった忌日なんですよ」
私「へぇぇ~~~そうなの?よく知ってるねぇ」
ハ「朝の天気予報で言ってましたからね。それはそうとのりもさん・・・
千代女のこの俳句、『朝顔に』っていうのと『朝顔や』っていうのとの
二つがあるっていうの知ってます?」
私「え?」
ハ「これね。
『朝顔に』になると、もらい水をするのは、
きれいな朝顔が井戸のつるべに巻き付いているのを取り去るのにしのびないんで、
もらい水をするってことになるんですよね。
ところが、『朝顔や』っていうと、
朝に咲いた朝顔の見事さにはっとして、そこで立ち止まってるんですよ。
そのあとふっと気付いて、もらい水をするっていう状況なんですね。
どちらもいい情景だって思いません?」
私「『もらい水 したあと 朝飯 何だろか』・・なんてね」
ハ「・・・・(もぉぉ・・・バカ)・・・・」
かれかれになりて朝顔の花一つ(子規)