大学で悪友たちと。
A「なあ、年末に年賀状は書いたか?」
B「いいや、書かないよ」
A「なんで?毎年もらうひとから年賀状が来たら、困るだろう?」
B「来ないよ。それに年始に会えば挨拶できるし。だいたい、新年でもないのに『明けましておめでとうございます』なんて、しらじらしい・・・」
A「お前も、偏屈だね。夏目漱石と同じようなこと言ってるよ」
B「え、漱石もそんなこと言ってんの?」
A「ああ、『筑摩全集類聚版 夏目漱石全集10(筑摩書房1972年版)』の『元日』っていう記事で漱石が書いてるよ」
『元日に御目出度いものと極めたのは、一体どこのだれか知らないが・・・雑録でも短編でも小説でも・・・苟くも元日の紙上にあらわれる以上は、いくら元日の顔をしたって、元日の作でないのに決っている。』
A「と言ってるよ。それで急に元日のことを書けって新聞社から言われても書けねえだろって、愚痴ってるんだ」
B「うん、うん、わかる」
A「あのな。漱石は文学者だぜ。自分の文章が書けないのはその雰囲気のない12月だからなんて、八つ当たりしているだけじゃないか。いわばわがままさ。文学者なら想像力を働かせるからこそ、その作品に価値があるんだろ?」
B「だけど、人間としてはその気持ちはわかるなぁ?」
A「まあもうひとつ。漱石はグチってお金になるが、お前はならないぜ?」
B「・・・・・・」
初夢の陳腐に腹を立ててをる(川崎展宏)