9月中旬、サークルの研究会が終わって悪友たちと、駅へと急いでいた。
前の空に煌々と真んまるなお月さまが顔をだした。
だれかが、
♪ つきのぉ~ さばくを~ はぁるぅうばるとぉ~
旅のぉ~ らくだがぁ~
ゆぅき~ ましたぁ~ ♪
と歌いだした。
「おい、ここはアスファルトだぜ、砂漠じゃないだろうが」と、ちゃちゃを入れる。
「残念でした。『月のさばく』の『さばく』は砂と書く砂漠じゃなくて、さんずいに少ないと書く『沙』なんだよなあ、これが」
「え、ほんとか?どうして」
「なんでも、この曲の作詩者『加藤まさを』がさ、この詩を思いついたとき、乾いた『すな』のイメージじゃなくて、自分が結核療養で滞在した海岸のしっとりした『すな』のイメージでこの字を当てたっていうことさ」
「それで?」
「だからさ、砂と書くとごつごつした岩もあるところを歩くイメージだろ。俺は今、さらさらっとして、しっとりとした水を含んだ砂浜を、きれいな王女さまをつれて歩いているという優雅なイメージなんだよ」
「何言ってんのか。砂の上であることに、変わりないじゃないか」
「おまえ、情緒がないなぁ」
菊に出でて奈良と難波は宵月夜(芭蕉)