大学のたまり場で悪友たちと、秋の味覚について話している。
A「秋のたべものは、梨もあったなぁ」
B「ああ、『有の実』な
A「なんだよそれ?」
B「うん、平安の時代から、梨っていうのは『無し』に通じるから、ナシじゃなくて、『アリ』といって、縁起かつぎのためにそう言いかえたのさ」
A「まあ、わかったような、わからないような・・・・」
C「ところで、五代目中村勘九郎が女優の太地喜和子と、なにやらあったっていうニュースが、スポーツ新聞に書いてあったけど、あの中で書いてある、なしえん(梨園)ってどういう意味?」
B「あの場合は『りえん』って読むんだよ。昔、古典で習ったろう?」
C「そうだったかなぁ・・・」
B「唐の玄宗皇帝が音楽を愛好していて、その奨励のために、楽人の子弟を梨の植わった庭園に集めて、みずから教えたって。そこから、劇壇ぜんたいを指して梨園っていうのさ。日本じゃ主に、歌舞伎界をさすことになったっていうのは、有名じゃないか」
C「へええぇぇぇ。だけどまぁ、おれは『虚より実』だなぁ。二十世紀を齧ってるほうがいいや」
B「・・・・・・・」
かたい梨子をかぢつて議論してゐる(尾崎放哉)