暑い。部屋で扇風機に当たりながら本を読んでいた。
『国取り物語』の第一部で松波庄九郎(のちの斎藤道三)が明り取り用の油を売って歩くというシーンがでてくる。
油のどろっとした感触と夏のどろっとした感覚が相通ずるものがある。
わが家は、親戚が奈良に住んでいるが、その親戚によると
「奈良は盆地で夏は暑く、冬は底冷えするほど寒いんだよ。夏は熱がこもって、風が吹かない日は『どろぉ~』とした空気がまるで油のようにただよっているね」というのを思い出した。
実際に、そうである。わが家の墓は奈良にあるため、盆には墓参りにゆくが、これは夏の空気感としてぴったりである。
読みながら、主人公が油売りになるのは、何か象徴的で
「ねっとりと、執拗に、いろいろなひととゆっくりとはなしをして、自分の利益をえてゆく」というのは、油というものを売る商人の特色と、主人公の行動が一致するようである。
夢中になって読んでいると階下から、母親が、ごはんができたから下りてくるようにとの声。
行ってみると、揚げたてのトンカツであった。
お、ここでも油まみれか!しめた!!いただきます。
とんカツの旨き盛夏となりにけり(高澤良一)