講義の始まる前の大教室。
大学庶務課の係員のおじさんが教室へやってくる。
お「学生さん。ちょっとごめんよ。今、スイッチ入れるから、そこをどいてくれる?」
A「あ、ごめんなさい」
教室の教卓の隅に、1メートル四方で高さ1.5メートルくらいの大型石油ガスストーブが置いてある。
そのスイッチを入れるために、庶務課のおじさんが回っているのである。
12月も半ばになると相当寒くなる。
ガチャという音がするとゴオォォという音と吹き出したような炎が飛び出す。
やがて、音もしずかになって、おじさんが「よし」と確認の声を上げて教室を出て行った。
われわれは、そのストーブの前に陣取り、「あったかい、あったかい」といっている。
Bは「甘露、甘露」と叫んでいる。
C「ばか、それはおいしい飲み物なんかを味わったときのほめ言葉じゃないか」というと、
B「おまえなぁ、『冬の暖は最高のごちそう』っていう優雅な言い回しを知らないのかよ。暖を味わってんだから、甘露でいいんだよ!!」
C「ふん、なに気取ってんだい」
冬の朝の、なんともくだらない口喧嘩でした。
ああいへばこういふ暖炉赤く燃ゆ(影山筍吉)