12月になると、歌番組が多くなる。
ある日、テレビを見ていると、三波春夫が懐かしの歌をうたっていた。
♬ おーい 船方さん 船方さんよ
土手で呼ぶ声 きこえぬか
姉さかぶりが みえないか
えんやさと 回して 止めておくれよ 船脚を 船脚を ♪
(作詞:門井八郎 作曲:春川一夫)
昭和30年代前半に作られた有名な歌である。
うまい!いい声である。
子供の頃、よく聞いた覚えがあった。
おもわず、なつかしい・・・とも思ったものである。
翌日、大学で悪友たちとの話し。
私「きのうさぁ、三波春夫が『船方さん』を歌っているのを見たんだよな。なつかしい」
A「それ分かる。だけどさ、あの歌詞の内容って全部江戸時代だって思わないか?」
私「なんで?」
A「まず、いまでいう船頭さんを船方って言って、方ということばで職業をあらわしてるだろ。あれは少なくとも、今、職業に方をつけるってのは、ほぼ、なくなったぜ。江戸時代なら奉行所の『取り方』とか、『調べ方』なんて、仕事についての区別ことばがあったじゃないか」
私「うん、うん。それで?」
A「ほかにはさ、姉さかぶりって、あのお茶畑で働く女性の、てぬぐいを頭に巻くやつだろ。辞書じゃあ「姉さんかぶり」って書いてあるんだけど、あんなの、われわれが子供のころだって、市場のおばちゃんがしていたぐらいだろ」
私「そんなことないだろ。食堂のおばちゃんたちは、今でもしてるぜ」
A「あれは、衛生上しかたなくやってるんだし、素材だって日本てぬぐいじゃないだろうが。あの歌詞の雰囲気は日本てぬぐいでなきゃ合わないだろう?」
私「うん、そうとも言えるかぁ」
A「さて、最後は、『えんやさと回して』ってところだ。船といってもおそらく川船だからそんなに大きな船じゃない。字で書けば舟という小舟だろ。それで竹竿を差して、舟の速度を緩めるか止めるわけだよ。土手にいる姉さんかぶりでかすりの着物の恋人との別れを惜しむかのように・・・・」
私「え、お前、いつからそんなにロマンチストになったの・・・・?」
見かへれば小舟に君は霞みけり(羅蘇山人)