民法を勉強していると、瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)という項目があり、法律で規定されている。これは、たとえば、りんご50個を八百屋から買ったときに、配達してもらって、小一時間ほどして、リンゴの詰まった段ボールをあけてみると、そのうちの10個が腐っていたという場合に、買主は八百屋さんにどういう請求ができるか、といった問題である。
瑕疵(かし)というのは、『きず』という意味であって、この場合リンゴ50個のうちの10個がだめになっているのだから、これが『きず』というわけである。
法の解釈のはなしとして、われわれは、
「まず、第一に契約解除ができるから、代金返還と損害賠償請求」
「いやいや、40個は正常なんだから、10個分を改めてもってきてくれというさ」
「10個持ってきてもらうんじゃなくて、10個分の金銭の返還だよ」
「それで、損害賠償はどうなる?」
などなど、いろいろな法解釈での解決策を議論する。
議論がおわった休憩時間、仲間のひとりNがだまっていたので、
Mが「おい、お前はどうかんがえてんだよ?」と聞くと、
N「いやぁ、法律論はみんなのいうとおりだよな。だけどさ、にっぽんで、なじみの八百屋からリンゴをまとめて買うとするだろ。そのとき、リンゴが、いくらかが、だめになっていたときって、八百屋がすみませんて言って、すぐ別のものを持って謝りにきたり、家の者が買い物にいったときに、このまえはすみませんでしたといって、おまけしてくれたり、安くしてくれたり、売る方も買う方も、損害賠償がどうのこうのと言わないだろう?」
M「そりゃそうだよ。にっぽんじゃあ、お互いの信頼で、事を穏便にすまそうとするし、この規定そのものが、契約社会を前提にしたヨーロッパをお手本にしてるんだから、ある意味で『ケンカ状態をどうおさめるか』ということをかんがえているからね」
N「うん、だから日本って『へいわ』でいいなぁと思ってさ」
M「・・・・・・・・」
冷奴本心さらりと云い退けし(高澤良一)