昭和54年の夏、ひさしぶりに大学同期で悪友のKとMと三人で大学サークルの顧問の先生のお宅へ遊びに行くことになった。
そのときの、Mとの会話。
私「おい、あついなぁ・・・空気が どよん としてる・・・」
M「ああ、ここらへんじゃぁ、昼間はこれくらいが普通だよ。だけど、夜になると涼しくなるから、まぁ、あと5時間ほどの辛抱だな。大阪じゃあ、ヒートアイランドで夜だって暑く眠れないだろうが」
MとKは先生の家のほど近くに住んでいた。
わたしは大阪から泊りがけで遊びに行くことになり、Mが駅まで迎えに来てくれたのである。
私「しかし、暑いよ。何か暑気払いはないのか?」
M「ははは。よし、久しぶりに枕草子で行くか?あのな、枕草子でさ、
『いみじき暑き昼中に、いかなるわざをせむと、扇の風もぬるし、氷水(ひみず)に手をひたしもてさわぐほどに、こちたふ赤き薄様を、唐撫子のいみじう咲きたるに結びつけて、とり入れたるこそ、かきつらむほどの暑さ、心ざしのほど、浅からずおしはかられて、かつ使ひつるだにあかずおぼゆる扇も、うちおかれぬ』(いみじう暑き昼中に)
ってのがあるんだよ」
私「えぇぇぇ~!!こんな、クッソ暑い時に古典かよぉ・・・・頭がはたらかないよ。何がいいたいんだよ?かえって暑さが増しちまう」
M「しょうがねぇやつだなぁ・・・・細かいことは抜きにしてさ、この文章は色がポイントになってんだと思うんだよな。清少納言の居る場所では、ドロォンとした空気のなかで、
氷をたらいかなんかに入れて手を浸して冷をとっていたら、ピンク色の唐なでしこが送られてきて、そこに真っ赤な紙、ひょっとしたら文かもしれない紙がむすびつけられていて、はっとして興味が引かれている中で、金色にかがやくであろう扇がそこにちらばってるわけさ。
氷の白、ピンクの花、赤い紙、金色って平安絵巻じゃないか。ちょっと引きつけられるだろぅ?」
私「あついぃぃ~~~~」
M「まったくぅ・・・情緒のないやつだなぁ・・・冷たいそうめん食わしてやるから、もうちょっと がまんしろ!」
私「うん!!!」
さうめんの淡き昼餉や街の音(草間時彦)