われわれが、大学生のころ、よくテレビで正月の特別番組として、「太閤記」や「織田信長」を題材とする時代劇が放映されていた。
そのなかで、必ず出てくるシーンが、桶狭間の戦いに挑む前の信長が「敦盛」を謡い、舞って戦場へ向かう場面であった。
♪ にんげん ごじゅうねん げてんのうちを くらぶれば
ゆめ まぼろしのごとくなり ♬
小さいころから、この場面にはよく出くわすので、謡は知ってはいるが、何がこの元であるのか知らないでいた。
本を読んでみると、どうやら「幸若舞」という芸能の一種であるという。
幸若舞というのは、足利時代に成立して、能とならび、武家に愛された芸能だそうである。
素朴な芸能で音曲はつづみひとつで、あとは数人の踊り手が単調な謡によって踊る。
ゆったりとした調子のもので、いわば、平安時代の白拍子が舞う男版のような芸能である。
一度だけ、どこかの神社でこの芸をみたことがあり、
わたしは、
「ああ。これかぁ・・・なんとも・・・素朴な芸能だなぁ・・・」という感じであった。
『敦盛』というのは、平家物語の平敦盛と熊谷直実の対戦に題材をえた舞いである。
この演目をも含めてなんとも、物悲しいのは、ひとの死を描くからであろうか?
テレビで信長が敦盛を舞うたびに、
「ちがうやん、盛りすぎ!!」と思うのだが
ドラマなんだから、派手な方がいいでしょ、という声が聞こえてくるようであった。