昭和48年に北海道での鉄道切符が話題になった。
愛国駅と幸福駅をむすぶ切符が大評判になり、この切符を手に入れたいと若者を中心に、収集ブームとなった。
この年の夏は、北海道への観光熱がさらに高まったようであった。
その後の、秋のわが悪友たちとの会話である。
「なぁ、愛国から幸福へっていう切符、なかなか手に入らないんだってな」
「ああ、なんでも市場でプレミアムが付いて、高くで売買されてるってさ」
「なんでそんなに人気あんの?」
「おまえさぁ、内容がロマンチックだからだろぅ。愛のあるところから幸福へ向かうからじゃないか」
「うん、わかるけどさぁ、それで、みんながそうなるわけじゃなし・・・」
「だから、縁起物なんだよ。それに言葉として、きもちいいだろぅ?カップルなら、よけいに、そうした『お守り』みたいなものがほしいんだろうさ」
「じゃあさ、今日は11月11日だろぅ?」
「うん」
「今日の切符の日付刻印は、1111と1が四つ、ぞろ目で並ぶじゃないか」
「ああ、そうだなぁ」
「きもちいいから、お守りになるだろう?」
「それは、お守りというよりも、鉄道マニアが欲しがる珍しい種類の切符ということで人気があるんだろ」
「おれ、今日、定期わすれてさ、切符で大学へ来たんだけど、この切符、コーヒー1杯で買わねえか?」
「いらねぇよ。おれは、鉄道マニアじゃないぜ」
「残念・・・・・せっかく改札でもらってきたのに・・・」
改札に切符を探す秋黴雨(あきついり)(松沢佐多子)