秋のおだやかな昼下がり。
われわれのサークルは法律を勉強することを目的としている。
それとともに、実践編として、学生が法律相談会を開くこともその活動の一部であった。
法律相談会では、相談が多いのは、相続問題と土地家屋の賃貸借問題であった。
そのため、普段、大学ではほとんど講義されない借地借家法という民法の特殊法の勉強をしなければならなかった。
余談ではあるが、われわれ学生は借地借家法のことを『かりかり』と呼び、親族法・相続法を『しんそう』と呼びならわしていた。
さて、『かりかり』が得意であったのが、Kである。
私は不思議に思ってきいてみたことがある。
私「おいK。おまえさ、相談会で必要なのはわかるんだけど、なんで『しんそう』より、『かりかり』のほうが好きなの?」
K「うぅぅん・・・・。なにかさ、『しんそう』ってべたべたしてないか?法だから、『しんそう』だって論理できちっと解決するんだけどさ、相続問題なんか、どの相談でも骨肉の争いのようなところがあるだろう?食べ物でいえばステーキなんだ。どうも、たまにならいいけど、いつもいつも食べたいとは思わないんだよなぁ」
私「だけど、『かりかり』だって、家賃がどうのこうのといって、争いになったらお金のどろどろっとしたものがみえるじゃないか?」
K「そうなんだけど。家賃なんかの問題は、払えば終わり、あるいは、借主が出ていけば終わりで、あとを引くことが比較的すくないだろぅ?さらっとした冷奴さ」
ああ・・・
ここが、Kの特徴でもある。まさに淡泊、ひとりっ子。
秋の暮れ道にしゃがんで子がひとり(高浜虚子)