4年生の秋、1週間ほど、悪友のひとりHが大学にやってこない。
みんなが心配しているなか、ある日、Hが久しぶりに、たまり場へ顔を出した。
青い顔をしているので、みんなが、「どうした、しなれない勉強でもしてたのかよ」と、口々にからかった。
H「うるさい。ちょっと酒を飲みすぎて、そのぉ・・・・急性膵炎で入院してたんだよ!!」
え! みんなが
「どうしたんだよ」、といったあと、心配になって、Hの話しを聞くことに。
ぽつりぽつりと話す中で、いろいろわかってきた。
Hは、後輩M嬢を本気で好きになったようだ。
M嬢もいやではないようなのだが、何か煮え切らない。
そこでHが意を決してM嬢に告白すると、どうも、父上の承諾がなければ、付き合い、ひいては結婚できないのである。
というのも、M嬢は地方都市の名家の跡取りむすめで、父上はここで事業を手広くされている。
Hは、M嬢の父上に会うために、M嬢とともに旅行名目で彼女の実家へ行ったようである。
その時、彼女の父上に、丁寧に
「うちは代々つづく家でね。娘はうちの事業を継いでくれる相応の婿を取らなければならんのですよ。君は長男であるうえに、申し訳ないが、『海のものとも山のものともわからない』状態にあるだろう?残念だけど、うちの娘のことについては、承諾できないよ」と諭されたそうである。
家に帰って、Hは、どうも、それほど飲めもしない酒をあおったらしい。
その後、
「俺、司法試験浪人やめた。今から就職する!!」と言いだした。
9月末から就職活動を始めるのは、相当つらい、
しかし、Hは11月末に、中堅の商社の内定をもらってきたのである。
そして、「俺、2・3年サラリーマンして、商売を覚えて、事業を起こす!!」と言いだした。
わたしには、いさぎよい、みごとな転身と思えた。
有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 浮きものはなし