3年生の秋。
わが家の電話が鳴る。
階下から、母親の声がする。
「よしあき、電話。五木君のおかあさんからよ」
五木と顔を見合わせる。
「え、なんでここが分かったの?」
おそるおそる、わたしは、電話をとる。
「はい、のりもです」
「のりもくん?うちの息子がお世話になってるでしょ?」
「いえ、いませんよ」
「・・・・。ま、いいわ。伝えておいてね。自分勝手に出て行ってもしかたないし、それじゃあ、生活に支障をきたすでしょ。問題がなんにも解決しないから、とりあえず、帰ってくるようにって。じゃ、お願いします」
と言って、電話が切れた。
二階に戻って、このことを五木に言う。五木は青い顔をしている。
五木は、年上の彼女との交際と将来について、ご両親の大反対で大喧嘩になり、わが家に迷い込んでいた。
わたしの母親には、このことを言わず、しばらく、五木を泊まらせることだけを頼んでいた。
それから、ほぼ1週間。
みごとに、わが家を、五木のおかあさんがさがし当てたのである。
われら友人は、誰も、彼のおかあさんと連絡をとっていない。
わが家の電話番号も、ご存じないはずであった。
「え、どうしてわかったんだ?」
「お前の、行動パターンが読まれてるんだよ」と、わたし。
青い顔のまま、五木は小さい声で
「今日、いちど家へ帰るわ・・・・」
おかあさんの手のひらで走り回る五木であった。
お釈迦様と孫悟空みたい・・・・
家出とは出家の初め梨の花(山崎十死生)