わたしがアルバイトで1か月働いたのは、町工場である。
時給制で1時間1,000円となり、当時の私にとっては、相当高額なお金が手に入るのである。
しかし、製造工場であるから、油と鉄くずの混ざったにおいと、すさまじい騒音でみんなが自分の担当する機械の前で、もくもくと汗を流して働くという、男だけの世界に入り込んだ。
作業は熟練の必要な旋盤工作や製品の型づくりをする工員さん以外は、極めて単純である。
わたしのような、軟弱新米工員は、メッキ作業や製品の運搬作業を黙々と一日中こなすだけとなる。
しかし、これがしんどいのである。
今のように、ロボットを使って、流れ作業のように製品を作るわけではない。
大部分がひとの手を使っての製品づくりである。
1日目、2日目は緊張しているから、数はこなせないが、何とか作業はしている。
ところが、やがて、慣れというものが出てきて、5日目ぐらいになると、からだのあちこちが痛いせいもあり、失敗をする。
半製品を入れた箱をひっくり返したり、リフト機械で押してはいけないときに、入りのスイッチを押して、機械そのものを止めてしまったりとか、いろいろな失敗を繰り返した。
そのたびに、工場長から、
「ノリモ君、遊びじゃないんだから、集中してやってもらわなければ困る!!」
とお叱りを受けた。
今考えても、申し訳ないことです。
ちょっとした不注意で、大事故になることは多くある。
すみません・・・・・お金を稼ぐのって大変!!
アルバイト最終日、工場長にあいさつしたとき、
「どうだい、つらかったかい?」と聞かれ、
「はい、大学生生活がどんなにありがたいか、よくわかりました!」
「・・・・・・・」(複雑な顔で沈黙する工場長)
油手をあげて虹みる工場の間(古沢太穂)