norimoyoshiakiの日記

昭和40年の後半からの学生生活と、その後のことを日記にしています。ご意見をお待ちしています。

ニヒリズム

 悪友のひとりに、Mという男がいる。彼は地方の進学公立高校出身で、父上が地方公務員をしているひとりっ子であった。素直に育っているし、頭も悪くない。

ただ、ひとりっ子ゆえの特徴として、あまり競争心がなく、マイペースに淡々と自分のなすべきことをするというタイプであった。

 

 大学4年間の生活費は、自分で家庭教師などの軽いアルバイトでかせぎながら、学業にはげんでいる。

 彼自身はいつも、

「俺は、ニヒリストだから。小さいことにはこだわらず、いつも冷徹な精神をもってすごしている」というのが、口癖であった。

 

 いわば、当時はやった「眠狂四郎」(「柴田錬三郎」作)の心境だそうである。

 

 あるとき、みんなと学食で昼食をとっていると、Mが遅れてやってきて、開口一番、ぶつぶつとみんなに不満をいいはじめた。

きいてみると、定食Bが20円値上がりしていることへの不満であった。

気持ちが分からないでもないから、みんなが、この不満を聞いていた。

 

 ひととおりのぐちが済むと、Mと高校からの友人であるKが

「おい、Mよ。おまえの普段のニヒリズムは、20円でこわれるのかよ?」

とからかった。

一同、大笑いとなった。苦笑いするM。

 

このとき、世間では狂乱物価という嵐が吹き荒れていた。

 

      折々の談笑ありて暑からず (高野素十)