われわれの時代、就職活動解禁は6月からであった。梅雨がつづき、からだが動かせないでいるある日、ひさしぶりに太陽が出たので、みんなで中庭に出てしゃべっていた。
すると、詰襟の学生服をおしゃれに着こなした4年のS先輩がやってくるではないか。みんなで、あれっと思い聞いてみた。
「先輩、どうしたんですか?Sさんの学生服すがたなんて、はじめてみましたよ」と聞く。
「ああ、今日、〇〇損害保険会社の第一次面接試験でな、スーツよりも、学生服の方がいいだろうと思ってさ」という返事。
それからしばらくして、ジーンズにラフなスタイルのF先輩がやってきて、
「おぅ、Sまたせたなぁ」と言って近寄ってきた。
F先輩は司法試験浪人を覚悟して、ただいま、アルバイトをしながら、卒業と来年の司法試験に向けて、図書館で勉強中であった。
ふたりは、われわれに「じゃあな」といって連れ立って食堂の方へ向かった。
うしろから見ても、対照的な法学部生であった。
一方は、これから就職活動をするという、律儀、まじめ、秀才の常識人。
一方が、勝負師、負けん気、努力のひと。
まさに、二色の大きなあじさいが咲いていた。
紫陽花や帷子時の薄浅黄 (芭蕉)