高校時代、三好達治の詩をおぼえた。教科書の最初のページに載っていたという記憶がある。
「あはれ花びらながれ
をみなごに はなびらながれ
をみなご しめやかに語らいあゆみ
うららかの跫音 空にながれ・・・」
雑な言い方をすれば、これは絵画や詩の世界のことで、こんな風景をみることはないだろうな、と思っていた。
わが大学はキャンパスが割と広くて、学舎にむかう道が、少し坂道になっている。その道に桜の木が植わっていて、4月になると一斉に花を咲かすが、当然、中旬から桜のはなびらが、散り始めるのである。
ある日、大学へゆくと、文学部の学舎へ続く坂道を、おおぜいの女子学生がカバンを持って、数人連れだって、わいわい、がやがや、にぎやかにのぼってゆく。
少し後ろの方から、法学部の同級生と歩いていると、晩春特有の、花散らしの風がふいて、
前の方の女子学生がキャーと言って、スカートを抑えている。
遠くから見ると、達治の詩になるなぁと、ぼおぉとながめていると、
この悪友が、
「おい、あんまり、ぼおっと見てると、ちかん とまちがわれるぞ」と言ってきた。
そうか、現実は、ちかん になるのかぁ、と妙に感心した。
その友達に、このことを言うと、
「をみなご、ちゃうやん。」と、ひとこと。
「う・・・!」と、息をつめる わたし。