norimoyoshiakiの日記

昭和40年の後半からの学生生活と、その後のことを日記にしています。ご意見をお待ちしています。

印象派

 大学の研究室で仲間たちと話していた。

A「この前、俺さぁルノワールへ行ってきたんだ」

B「え?めずらしいなぁ・・・展覧会なんて秋に開かれるのが普通なのに、冬にか?」

 

A「ああ・・・ちょっと濃い目だけど、おいしいコーヒーだったぜ」

C「ばか、それは喫茶店だろうが。もぉ・・・」

 

B「はは、それはそうと、絵画の方のルノアールって日本人好みの絵として有名だよなぁ」

C「うん、あの何とも言えないやわらかいタッチが日本人に好まれるんだろうなぁ・・・えっと・・・印象派だったよな?」

 

B「そうそう。美術史で勉強したことがあるよ。とくに『日常の光の変化』を表現することに重点を置くんだってさ」

 

C「うん・・・だから・・・印象派の絵ってきらきらしてたり、淡くてうすぼんやりしてたりするんだよな・・・なんとなくほわぁんってしてるっていうんだろ」

 

B「そこがロマンチックで、乙女心をくすぐるんだろうなぁ」

 

A「そうかなぁ、ほわぁんじゃなくて、しっかりとした濃い味がしてたぜ」

 

B・C「・・・・・(ばか)・・・・・」

 

     夢に舞う能美しや冬籠(松本たかし)

富士スキー

 冬のある日、Yの家へ出向く。

私「おーい、居るかぁ。いい天気だぜ、散歩にでも行かないかぁ?」

 

Y「おお、のりも。ちょっと待ってくれ。今、テレビで富士山の特集してんだよ。見ろよ、勇壮できれいだぜ。特に冬の富士のシーンだからさ」

 

私「うん?どれどれ?おお・・・冬の富士かぁ・・・いいなぁ・・・」

 

Y「ところでな、むかしさぁ、プロスキーヤー三浦雄一郎が富士山で大滑降したろ。あれを今、思いだしたんだよ」

 

私「ああ、ニュースだったか、映画だったか・・・見たことあるよ。それがどうした?」

 

Y「いやぁ、彼がなんで富士山をスキーで滑ろうって気になったのかが不思議になってさぁ」

 

私「うん?そりゃぁまぁ冒険家だからだろぅ?」

 

Y「冒険にしたってさ、この富士山の解説聞いてたろ?頂上付近から滑りだすと、とてつもない急坂だし、おそらく突風は吹くだろうし、分からないところにクレバスはあるわ、一度でも転べば生きてられないんだぜ・・・・」

 

私「うん・・・・」

 

Y「感動するんだよなぁ・・・・さてと、体をきたえないとなぁ・・・歩くんじゃなくて、ランニングにするか、のりも?」

 

私「やだ!」

 

       寒けれど富士見る旅は羨まし(子規)

柊鰯

 昭和60年頃、ある大学の講師控室で、国文学専攻のF先生と食べ物の話しとなった。

 

F「ところでのりも君、節分には鰯を食べましたか?」

私「え?いわし・・・ですか?僕・・・あれ・・・好きじゃないんで・・」

 

F「あれまぁ・・・おいしいのに・・まぁ鬼と一緒ですねぇ・・・」

私「え?どういうことですか?鬼と一緒って?」

 

F「柊鰯って知ってますか?」

私「あの、玄関のところに鰯の頭を指した柊をさしておくやつでしょ。子供の頃は、母親がよくやってましたけど・・・」

 

F「そうそう、節分の習慣で、あれは魔除けの柊と、イワシの焼くけむりで鬼が逃げ出すからって言うんですよ」

 

私「はは・・・ひどいなぁ・・・鬼あつかいですかぁ・・・」

 

F「栄養価が高いんだし、食べないと。それにね、柊鰯は歴史があるんですよ?

たとえばね、『土佐日記』には元日条(がんじつのくだり)で

  『小家の門のしりくべ縄のなよしの頭、柊ら、いかにぞ』

                       って記述があるんですよ」

 

私「え?どういう意味ですか?」

 

F「直訳するとね、

  『ある家の前のしめ縄にボラの頭がさしてある柊がかざってあって、

              なんとまぁ信心深いことよ』

                     って意味なんでしょうね」

 

私「え?『なよし』って魚のボラのことですか?」

 

F「そうですよ」

 

私「いいなぁ・・・ボラなら食べたいです!!」

 

F「・・・・・・・」

 

      ひとの来て柊挿して呉れにけり (石田波郷

ネコ

 昭和56年ごろ、大学での学生仲間たちとの話し。

 

A「なぁ、この頃『なめ猫』がはやってるだろ?」

B「『なめ猫』っていろんな猫が暴走族の恰好をして、『なめんなよ』とか言ってるやつか?」

 

A「そうだよ。うちの家でも、高校生の妹なんかが、かわいい~~とか言って、なにやらポスターなんかを集めてるんだよ」

 

C「たしかに、一大ブームだもんなぁ。だけど、それがどうしたんだよ?」

 

A「うん、あれで影響を受けちまって、妹がネコを飼いたいって

                  言いだしたんだよなぁ・・・」

B「え?お前たしか、ネコきらいだよな?」

 

A「あぁ・・・ネコは苦手でさ・・・

ネコが居るとくしゃみがとまらないんだよなぁ・・・

     犬はいいんだけどさぁ・・・。

   で、どう思う?

何とか、ネコを飼うことを阻止する方法はないかなぁ?」

 

B「無理だね」

 

C「おれもそう思う」

 

A「なんで?」

 

B「考えてみな。お前の妹が、ちいさい子猫を連れて帰るとするだろ?

まずお母さんは『かわいいかわいい』って言って世話を始めるぜ、たぶん。

一家の主婦がそうなったら、もう、おしまい。

お父さんやお前が何を反対しようが、絶対ダメだからな。

あれは、女性の小さな生き物に対する本能だろうなぁ・・・」

 

C「お母さんも反対してないんだろ?」

 

A「ああ・・・ダメかぁ・・・」

 

B・C「なめんなよ!!! なぁんてね」

 

A「・・・・・・」

 

     しげしげと子猫にながめられにける(日野草城)

すみれの花咲くころ

     ♬ すみれの花咲くころ はじめて君を知りぬ

              君を想いひごと夜ごと 悩みしあの頃・・・・

                      すみれの花咲くころ・・・・♪

    (『すみれの花咲くころ』作詞:Fritz Rotter・白井鐵造 作曲:Franz Doelle)

 

 昭和55年頃の夕、Yの部屋で宝塚歌劇が放映されているテレビを見ていた。

 

Y「華やかだよなぁ・・・宝塚って・・・この曲でおしまいだろ」

私「ああ、だけどこの曲って宝塚歌劇の定番だろ?なんですみれの花なんだろ?」

 

Y「そりゃ・・・すみれ花のように、

                      可憐に紫のきれいな花が、イメージにあうってことじゃないのか?

     まぁ、調べてみるかぁ・・・えぇぇっと・・・すみれのはなの うた・・・」

 

私「そんなもの載ってるわけないだろぅが」

 

Y「あったあった・・はは・・・残念でしたぁ!!

  すみれの花咲く頃の歌『宝塚歌劇団を象徴する歌として知られる楽曲。

      原曲はドイツ映画』“Wenn der weiße Flieder wieder blüht”

          (再び白いライラックが咲いたら)である』とさ」

 

私「うん?ライラック?なんだよそれ?」

Y「えぇぇっと・・・花図鑑だと・・・これ!

   ヨーロッパ原産の紫または白い花で春に咲くってさ」

 

私「紫と春に咲くってだけが一緒かぁ・・・なんだか分からんなぁ・・・」

 

Y「花の命は短くて 苦しきことのみ多かりき・・・」

 

私「・・・・(なんだよそれ)・・・・」

 

      何とはなしに何やらゆかし菫草 (松尾芭蕉

ルビーの指輪

     ♬ くもり硝子のむこうは風の街 

             問わず語りの心がせつないね

        枯れ葉ひとつの重さもない命・・・・

     そうね誕生石ならルビーなの そんな言葉が頭にうずまくよ・・・・

                あなたを失ってから・・・♪

               (『ルビーの指輪』作詞:松本隆 作曲:寺尾聰

 

 昭和57年ごろ、大学のコピー室にゆくと、ハチヤ君が作業をしながらルビーの指輪を口ずさんでいた。

 

私「おはよう。ハチヤ君なにかいいことでもあったのかい?」

 

ハ「あ、おはようございます。いいえ、別に何もないですよ?」

 

私「今はやりの『ルビーの指輪』なんか歌ってるから、何かあるのかと思ったよ?」

 

ハ「いえね。きのう高校時代の友達と話してたら、そいつは、宝石店に勤めてるんですけど。いまルビーが大はやりで、よく売れるんだっていってましてね。そんなこんなで、ルビーの指輪が口からでたんですよ。この歌、なにかしら調子もいいでしょ」

 

私「あぁ、そういうことかぁ」

 

ハ「おもしろかったんですよね。

    ルビーって『宝石の女王』っていわれてるんですって」

私「どうして?」

 

ハ「彼がいうのにはね、ルビーってダイヤモンドの次に硬くって、真っ赤でしょ。

    その強さと気品から来るんだろぅっていってましたよ。

    それに、その光沢はみごとなもので、

  透明感のある最高級のルビーを『ピジョン・ブラッド』っていうんですって」

 

私「ピジョン・ブラッド?どういう意味?」

 

ハ「ハトの血っていう意味らしいですよ。

   ハトの血って真っ赤でとてもきれいなんだそうです。

    これは東南アジアのビルマでだけ採れる最高品なんですって」

 

私「なるほど・・・」

 

ハ「だから、ルビーの赤って人のこころを魅了する燃えるような色彩ってことで、

    かのシェイクスピアも『ルビーは妖精の贈り物』

                って言って誉めたそうですよ」

 

私「照れるじゃないか『よせぃ』よ・・・なんてね」

 

ハ「・・・・・・・・」

 

        この人に冬日の如く親しみし(高野素十)

相聞歌

 昭和60年ごろ、ある大学の講師控室で、国文学者のF先生と話していた。

 

F「そろそろ、雨水ですねぇ」

私「先生、二十四節気の雨水のことをおっしゃってるんですか?」

 

F「あれ?そんなこと知ってるんですね?見直しましたよ」

私「はは・・・天気予報でそんなことを言ってましたから・・・

         それに先生には畑仕事のキッショになるんでしょ?」

 

F「はは・・・なるほど。それじゃぁ、農事と直接の関係のない雨水の話しをしましょうか?」

私「え?」

 

F「万葉集巻十にね。

    梅の花散らす春雨いたく降る旅にや君が廬(いほり)せるらむ

                            (よみびと知らず)

                          っていう歌があるんですよ。

               知ってますか?この相聞歌」

 

私「いいえ・・・知りません・・・」

 

F「あのね、相聞歌って恋人どおしとか、夫婦や親子の間で交わされる情愛の思いをあらわすんで、合い聞くっていう相聞だってされるんですよね。

 この時期、冬からほんのちょっとだけ暖かくなって

            降る雪もみぞれまじりになってくるでしょ。

       まぁ、だから雨水なんだけどね。

  この歌は、これくらいの時期に詠われたんじゃないかっていわれてますね。

       どう思う?」

 

私「はぁ・・・」

 

F「独り者の のりも君には、無理かぁ・・・ラブソングなのになぁ・・・」

 

私「・・・・・・」

 

      雨水より啓蟄までのあたたかさ(後藤夜半)