norimoyoshiakiの日記

昭和40年の後半からの学生生活と、その後のことを日記にしています。ご意見をお待ちしています。

軽自動車

 昭和51年1月中旬に、軽自動車の排気量が360ccから550ccへと変更になった。

従来からなじみ深い360ccエンジンが消えてゆく。

 

中学時代の友人Yの家で話している。

私「なあ、軽自動車の排気量が上がるよなぁ」

Y「ああ、550ccになるんだろ。そりゃ、360ccじゃ力も足りないし、山道なんか登れないから、今の時代、役に立たないだろぅ?当然だよ」

 

私「だけど、街中を走るなら、それくらいでも良くないかぁ?」

Y「あのな、高校時代の友人で、今、自動車会社に勤めてるやつに聞いたんだけどさ、軽自動車も今じゃ360じゃあ、社会のニーズにこたえられないから、政府にずっと排気量規制を緩和してくれって言ってたんだってさ」

 

私「うん、なるほどな」

Y「自動車は馬力が大きくなればなるほど、スピードが出るだろぅ?」

 

私「ああ、そうだろうなぁ」

Y「それで、エンジンを大きくして、馬力があがるようにしたわけさ」

 

私「それでどれくらい上がったの?」

Y「360ccだと、最高で40馬力だけど、550ccだと50馬力になるんだってよ」

 

私「それってすごいのかよ?」

Y「ああ、1馬力って175ポンドの荷物を馬に引かせて、1分間で188フィート移動する力をいうんだってさ」

 

私「分からん・・・・・・で?」

Y「・・・・・・・」

 

           自動車と駕と麓に冬紅葉(高浜虚子

水仙

 大学でゼミの友人同士。

A「1月の花ってなんだろう?」

B「いろいろあるよ、水仙、梅、シクラメン山茶花なんかだろぅ」

 

A「そのなかで、1月に一番ふさわしいのってなにかなぁ?」

B「ふさわしいかどうかは、分からないけど、俺は水仙が好きだなぁ」

 

A「なんで?」

B「前に、冬の北陸に行ったことがあるんだ。そのとき、道路の山ぎわにいっぱいの水仙が咲いててさ。可憐できれいだったぜ」

 

A「ふうぅぅん。水仙って何か和歌に残っていそうだけど、知ってる?」

B「よくは知らないけど、水仙って大陸から渡ってきた花なんだってさ。だから平安時代にはこの花の和名がなかったようで、江戸時代くらいに水仙がうたにとりあげられるようになったんだって。だから、水仙についてのうたっていうのは、これ以後のものしかないんだってさ。たとえば、

 

『ふりかくす雪うちはらひ杣人(そまびと)の名もかぐはしき花を見るかな』

                                 (千種有功

っていう『うた』があるよ」

 

A「え、どこにも水仙ってことばがでてこないじゃないか?」

B「このうたはさ、ちょっと仕掛けがあって、杣人っていうのは『やまびと』とも読むんだよ」

 

A「うん、うん」

B「でな、水仙っていうのは『山に住む仙人』って意味があって、杣人(やまびと)が花の水仙をあらわすことになるそうだよ」

A「ややっこしい。なんでそんなことをするの?」

 

B「うん・・・。水仙っていう字が漢語なんだよ。その漢語を和歌に入れることは忌み嫌われるんだよなぁ」

A「ああぁ・・・いわば国粋主義かぁ・・・」

 

          水仙と唐筆と売る小店かな(河東碧梧桐

カノッサの屈辱

 昭和48年の学年末試験の最中である。

たまり場で悪友たちと。

A「だめだぁ、『カノッサの屈辱』!」

B「なんだよぉ、それ?」

 

A「知らないのかぁ。世界史でやったろぅ」

B「カノッサの屈辱は覚えてるよ。1077年に神聖ローマ皇帝ハインリッヒ4世がカノッサ城の門前で、破門の許しを請うっていうやつだろぅ?」

 

C「そうそう、こんな風に」

と、Cが片足づきをして手をあげる。

 

A「ちがうちがう、それじゃあ、ロミオの求愛場面じゃないか。ところで、あのできごとが1月25日の今日から3日間なんだよ」

B「よくもまあ、そんな細かい日付を覚えてんなぁ。それで、なんでお前がカノッサの屈辱なんだよ?」

 

A「だって、さっきのドイツ語試験できなかったから、合格不『かのうさ(可能さ)』の屈辱・・・」

 

B・C「・・・ばか・・・・ひどいダジャレ・・・それに、『合格不』じゃ、いろんな意味で、だめだろうが」

くっだらない会話でした・・・・・・・

 

        帰りにもなお立ち話寒日和(北田真洲美)

学年末レポート試験

 昭和49年1月のわが大学の学年末は混乱していた。

 

大学が来年度入学生からの学費値上げを決めたことから、学生自治会が反対し、大学封鎖の状況となったからである。

 

 この時期は下火になってきたとはいえ、学生運動の残り火が燃えており、これからはじまる学年末試験、大学入試をひかえて大きな問題をかかえることになった。

 

 在学生であるわれわれは、学年末試験が平常どおり行われるのか、あるいは、レポートでの試験となるのか、やきもきしながら、その行方を見守っていた。

 

A「おい、学年末試験、どうなるかなぁ?」

B「ああ、レポートだといいなぁ」

 

A「なんで?」

B「おれ、去年、単位が取れない科目があったんだよな。それを加えると、試験を受けなきゃいけない科目が去年の不合格科目を足して、すごい数になるんだ」

 

A「うん」

B「だから、レポートなら、何とか全部合格できるだろ?」

 

C「だけど、それだと、『優』をとることができる科目は減るだろぅ?」

B「なんで?」

 

A「だって、民法のT教授がいってたよ。『実際の試験で解答するから、試験なのであって、レポートなんて本の丸写しで試験なんてことは言わない。そんなのは、読むのもいやだし、そうなったら、成績なんてみんな『可』か、よくて『良』しかつけない!』ってさ」

 

B「それでもいいよ。なんとか、履修した科目の合格がほしいもの」

A「うん、そういう学生もいるよな」

 

C「ああ、反対に一発勝負の通常試験の方がいいって学生もいるもんなぁ」

B「なんで?」

 

A「そりゃ、勝負が早いし、うまくいけば『優』の成績がとれるじゃないか。科目の勉強に自信のあるやつは、それの方がいいんだろうさ」

B「うん・・・・・・・・」

 

       冬花火誰かいくさのまなざしす(齋藤玄)

学年末試験

 昭和50年の学年末試験が始まった。

試験会場に座り、予想問題の解答を書いた紙を必死で読み、覚え込んでいた。

試験開始まであと10分。

 

科目は民事訴訟法である。

わたしは、過去の出題問題を検討・予想をして、「口頭弁論について述べよ」という問題が出ると信じ、この解答のみをノートして覚え込む作業をしていた。

これが外れると、何も書けないことになり、不合格は確実である。

 

 試験監督官が入ってきて、準備している。その間も、必死でノートを見て、覚え込む作業を重ねた・・・・

やがて、筆記用具と六法以外の物をカバンに、しまうようにとの指示を受け、裏向けの問題が書かれてある解答用紙が、配布される。

満を持して・・・開始ベル・・・・

 

答案を開けた瞬間・・・・・うわぁ・・・・・・

「問.弁論主義について述べよ」

 

頭が真っ白になった瞬間である。

しかたなく、六法に規定する弁論主義の定義だけを書き、

 

あとは、

「・・・・ところで、口頭弁論とは・・・・」と、本題とは、はなしをすり替えて、覚えた限りすべてを書き綴って、1時間を終えた。

 

ああ・・・だめだぁ・・・・

『へたな鉄砲も、数打ちゃあ・・』に、ならないかなぁ・・・

 

     明日テスト水鉄砲を撃ちまくる(吉江テルヨ)

睦月

 大学にて。

A「和名での1月はむつきだろぅ、あれってなんで?」

B「正月は、みんなが集まってむつみ合って過ごすからさ」

 

A「それだけ?」

B「うん、それが通説」

 

A「つまんねぇ・・・」

B「つまんなくないよ。これは8世紀から文献に残ってんだぜ」

 

A「どういうこと?説明しろよ」

B「まず、万葉集で、よみびとは、だれか分かんないけど、

 

 

『武都紀(ムツキ)たち春の来たらばかくしこそ梅を招(を)きつつたのしき終へめ』

                              〈紀卿(名未詳)〉

                              

って詠んでんだよ。

ここのムツキっていうのは漢字の当て字だろ。

ということは、音が先にあって 正月を『むつき』って言ってた証拠にもなるじゃないか」

 

A「うん、うん」

B「それでな、同じ万葉集で、よく知られている大伴家持がさ、

 

『正月(むつき)立つ 春の初めに かくしつつ 相(あひ)し 笑(ゑ)みてば 時(とき)じけめやも』

 

って詠んで、正月のはじめからみんなで笑い合ってすごすのは楽しいよって言ってんだよ。ここでも、家持は正月って書いてんのに、ムツキって読んでるじゃないか。当時から正月をムツキって言ってるからこそ、いまだにこの読み方が残ってるんだろ?すごいとおもわないか?」

 

A「分かんないだろ。当時は『しょうがつ』って読んでたかもしれないじゃないか」

B「あのな。おまえこれ和歌だよ。正月を『しょうがつ』って詠んだら七五調にならないし、センス悪いだろうが」

A「ううぅぅンンン・・・・・・・・」

 

       松の間の障子真白く御歌会(澤木欣一)

新春

 大学がはじまった1週目に悪友たちと話している。

 

A「なあ、早口言葉『しんしゅん シャンソン ショー』って三回言えるか?」

B「しんすん さんしょん しょー・・・・」

C「ばか、ちがうよ、しんしゅん しゃんしょん そー あれ?」

 

A「はは、舌がまわってないだろうが」

B「おまえ、言えるのかよぉ」

 

A「まぁまあ、それは置いておいてさ、なんで正月が新春か分かる?」

B「ええっと、旧暦では1月は春だからだろぅ」

 

A「そうそう。で?」

C「『で』って、あと何かあるのかよ?」

 

A「詳しく言わないと、説明になんないだろぅ?旧暦は今の暦より1か月遅れだろ?それで、旧暦の正月っていうのは、今の2月19日くらいを言うんだってさ。ということはだよ、それくらいの時期は、暦でいう立春になるわけだろぅ?だから1月は春のさきがけであり、新たな春になるから、新春と言ったんだってよ」

 

B「よし、分かった。それはそれとして、お前『新春 シャンソン ショー』 三回言ってみろよ。お前が言いだしたんだからな!」

C「そうだそうだ」

 

A「あ、授業、授業・・・授業いかなきゃ」

B・C「こら。逃げるな!!」

 

     年改まり人改まり行くのみぞ(高浜虚子