昭和51年10月1日は金曜日であった。
わたしは、朝から大学に来ていたが、悪友のKやMはとうとう現れなかった。
そうか、週はじめに会ったとき、ふたりとも、1日、2日は本命企業の説明会に行くといってたっけ。
そりゃ来ないわなぁ。
この年の就職はきついとの前評判であった。
狂乱物価の影響で、大企業は新卒採用を手控えて、KやMもその影響を、もろに受けていた。
しかし、本命をしぼって、その説明会に参加すれば今でいう、エントリーしたことになり、採用対象および採用の可能性が高くなる。
大きな企業は10月1日にその説明会日を集中させていた。
そのため、学生は、業種をしぼって、その本命企業に応募に出向くのがこの日であった。
KもMも、それぞれが第一希望の企業に足を運んでいるのであろう。
まあ、われわれ4年生は、残す単位科目が、1つ2つであるため、差し迫って大学に来る必要がない。
そのため、同期の姿が今日はほとんど見られない。
ひとりで、たまり場でカップコーヒーを飲んでいると、サークルの後輩がわいわい言いながらやってきて、
「あれぇ、のりも先輩、就職活動されないんですかぁ?」と聞いてくる。
「ああ、俺だけ、はぐれ鳥・・・」
「まさか、ひょっとして留年?」
「まぁ、そのようなもんだね」
「じょうだんですよぉ。大学院受けられるんでしょ、聞いてますよ」
「はは、知ってたのか?しかし、落ちたら留年より悪い、漂流者だもんなぁ」
この明るいはげましのからかいに、ちょっとだけ元気になった。
さて、もうちょっと、図書館で勉強するかぁ。
KやMと会うのはこの1週間後で、どうやら、2人ともエントリーに成功したようであった。
さらに、月末には、内定通知を受取って、すました顔をしていた。
たくましい奴らです。
初秋やたゞ近付きの空と雲(田川鳳朗)